方丈記『ゆく河の流れ』解説・品詞分解

「黒=原文」・「赤=解説」「青=現代語訳」
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ゆく河の流れは絶えして、しかももとの水あらず。

ず=打消しの助動詞、接続は未然形。最初の「ず」は連用形。最後の「ず」は終止形。

しかも=接続詞、なおその上、それでいて

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

行く川の流れは絶えなくて、それでいて(そこにある水は)もとの水ではない。


淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたる ためしなし。

よどみ(淀み)=名詞、流れが滞っている所

久しく=シク活用の形容詞「久し」の連用形、長い時間がたったさま

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

ためし(例)=名詞、例、先例

淀みに浮かぶあわは、一方では消え、一方ではまた出来て、長くとどまっている例はない。


世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。

かく=副詞、このように、こう

この世にいる人間と住処とが、やはりこのようなものである。


たましきの都のうちに、棟(むね)を並べ、甍(いらか)を争へ高き卑しき、人のすまひは、世々経て尽きせ ものなれ 

たましき(玉敷き)=名詞、玉を敷きつめたように美しいこと

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

高き=ク活用の形容詞「高し」の連体形、身分が高い、高貴である

卑しき=シク活用の形容詞「卑し」の連体形、身分が低い

尽きせ=サ変動詞「尽きす」の未然形、(下に打消の語を伴って)なくならない、尽きない

ぬ=打消しの助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

ど=逆接の接続助詞、接続(直前に付く用言の活用形)は已然形である。

美しく立派な都の中に、棟をならべ、いらかの高さを競っている身分の高い人や低い人の住まいは、何世代を経てもなくならないものであるが、


これをまことかと尋ぬれ 、昔あり家はまれなり

尋ぬれ=ナ行下二動詞「尋ぬ」の已然形、さがしもとめる、調べる

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

し=過去の助動詞「き」の連体形

まれなり=形容動詞、終止形、まれである、めずらしい

このことが真実であるかと調べてみると、昔からあった家はまれである。


あるいは去年(こぞ)焼けて今年作れ。あるいは大家滅びて小家となる。住む人もこれに同じ。

あるいは=あるものは、ある時は

り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

あるものは去年消失して今年(新しく)作っている。あるものは大きな家が没落して小さな家となる。住んでいる人もこれと同じである。


所も変はら、人も多かれ 、いにしへ見人は、二、三十人が中に、わづかにひとりふたりなり

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

多かれ=ク活用の形容詞「多し」の已然形

ど=逆接の接続助詞、接続は已然形

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

場所も(同じ町で)変わらず、人の数も多いけれど、昔あったことのある人は、二、三十人の中で、わずかに一人二人である。


朝(あした)に死に、夕べに生まるる ならひ、ただ水のあわに  たり ける

生まるる=ラ行下二動詞「生まる」の連体形

ならひ=名詞、世の常、きまり、さだめ

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

似=ナ行上一動詞「似る」の連用形

たり=存続の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形

ける=詠嘆の助動詞「けり」の連体形。接続は連用形。「過去」で訳すのは不自然なため「詠嘆」の意味である。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

朝に(だれかが)死に、夕方には(だれかが)生まれる世の常は、ちょうど水の泡に似ていることだ。



知ら、生まれ死ぬる人、いづかたより たりて、いづかたへ去る。

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

死ぬる=ナ変動詞「死ぬ」の連体形

来(き)=カ変動詞「来(く)」の連用形

たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形

か=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。「去る」が結びとなっている。

わからない、生まれ(そして)死ぬ人は、どこから来て、どこへ去るのかを。
※倒置法


また知らず、仮の宿り、たがためにか心を悩まし、何によりて目を喜ばしむる

宿り=名詞、住まい

か=疑問の係助詞、結びは連体形。係り結び。

しむる=使役の助動詞「しむ」の連体形、接続は未然形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。

またわからない、(この世での)仮の住まいについて、誰のために心を悩ませ、何によって目を楽しませるのかを。
※倒置法


その、あるじとすみかと、無常を争ふさま、いは 朝顔の露に異ならず。

いは=ハ行四段動詞「言は」の未然形

ば=直前が未然形なので④仮定条件「もし~ならば」の意味である。

そのように、家の主人と住居とが、無常を競い合う様子は、言うならば、朝顔の花と(その朝顔の上に置いた)露との関係と異ならない。


あるいは露落ちて花残れ。残るといへども朝日に枯れ

り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形。接続は連用形。

あるものは露が落ちて花だけが残っている。残っているとはいっても、朝日で枯れてしまう。


あるいは花しぼみて露なほ消えず。消えずといへども夕べを待つことなし。

あるものは花がしぼんで露はまだ消えないでいる。消えないとはいっても、夕方まで消えずに待つことはない。
※朝顔→すみか、露→あるじ、にそれぞれ例えられている。


※対句法(語の並べ方と意味を同じようにし、対(1セット)にする修辞法)
ゆく河の/流れは/絶えずして、/しかももとの水にあらず。

淀みに/浮かぶうたかたは、/かつ消えかつ結びて、/久しくとどまりたるためしなし。


あるいは露落ちて/花残れり。/残るといへども/朝日に枯れぬ。

あるいは花しぼみて/露なほ消えず。/消えずといへども/夕べを待つことなし。