平家物語『能登殿の最期』(1)解説・品詞分解(平教経vs源義経in壇ノ浦)

「黒=原文」・「赤=解説」「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら平家物語『能登殿の最期』(1)現代語訳


 およそ能登(のと)の守(かみ)教経(のりつね)の矢先に回る者こそ  なかり  けれ

およそ=副詞、おおかた、だいたい

能登の守教経=平教経(たいらののりつね)

矢先=名詞、矢の飛んでくる正面、矢面

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び

なかり=ク活用の形容詞「無し」の連用形

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形。係り結び

おおかた能登の守教経の射る矢の正面に立ちまわる者はいなかった。


矢だねのあるほど射尽くして、今日を最後と思は  けん、赤地の錦の直垂(たたれ)に、唐綾縅(からあやおどし)の鎧着て、いか物づくりの大太刀(おおだち)抜き、

矢だね=名詞、所持して射る矢、箙(えびら)などに入れて身に付けている矢

や=疑問の係助詞、結びは連体形となる

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。動作の主体である能登殿(教経)を敬っている。助動詞「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つ意味がある。

けん=過去推量の助動詞「けむ」の連体形が音便化したもの、接続は連用形、係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び

いか物づくり=名詞、厳めしい作りであること

(能登殿は)所持している矢のあるだけ射尽くして、今日を最後(死ぬ時)とお思いになったのだろうか、赤地の錦の直垂に、唐綾縅の鎧を着て、いかめしい作りの大太刀を抜き、


白柄(しらえ)の大長刀(なぎなた)の鞘(さや)をはづし、左右(さう)に持つてなぎ回りたまふに、面(おもて)  合はする  なき

なぎ=ガ行四段動詞「なぐ(薙ぐ)」の連用形、横ざまに払って切る

たまふ=ハ行四段補助動詞の連体形、尊敬語。動作の主体である能登殿(教経)を敬っている。

おもて(面)=名詞、顔、顔面

合はする=サ行下二動詞「合はす」の連体形

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形。係り結び

なき=形容詞「無し」の連体形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び

白木の柄の大長刀の鞘をはずし、(太刀と長刀を)左右の手に持ってなぎ倒しまわりなさるので、面と向かって相手になれる者はいない。


多くの者ども討た    けり

れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

多くの者たちが(能登殿に)討たれてしまった。



新中納言、使者を立てて、「能登殿、いたう  作りたまひ  さりとてよき敵(かたき)」とのたまひ  けれ  

いたう=形容詞ク活用、良い意味でも悪い意味でも程度がはなはだしい、「いたく(連用形)」が音便化して「いたう」となっている

な=副助詞、そ=終助詞
「な~そ」で「~するな(禁止)」を表す。「な作りたまひそ」→「作りなさるな」

たまひ=補助動詞ハ行四段、尊敬語。動作の主体である能登殿(教経)を敬っている

さりとて(然りとて)=接続詞、そうかといって、だからといって

か=疑問の係助詞

のたまひ=ハ行四段動詞「のたまふ」の連用形、尊敬語。おっしゃる。動作の主体である新中納言(平知盛)を敬っている。

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続詞は連用形

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

新中納言(平知盛)が使者をつかわして、「能登殿よ、あまり罪を作りなさるな。そんなこと(薙ぎ倒しまわるようなこと)をしたからといって立派な敵か。」とおっしゃったところ、


さては大将軍に組め  ごさんなれ」と心得て、打ち物茎短(くきみじか)に取つて、源氏の船に乗り移り乗り移り、をめき叫んで攻め戦ふ。

さては=接続詞、それでは、それから、その他には

組め=マ行四段動詞「組む」の命令形。組み打ちする、相手に取りついて組み討つ

ごさんなれ=これ以上品詞分解はできないが、もとは「(とに)こそあるなれ
こそ=強調の係助詞、結びは已然形
なれ=断定の助動詞「なり」の已然形、接続は体言・連体形

心得(こころえ)=ア行下二段動詞「心得(こころう)」の連用形。心得る、(事情などを)理解する。ア行下二段動詞は「得・心得・所得」だけのはずなので覚えておいた方がよい。

茎短に=ナリ活用の形容動詞「茎短なり」の連用形。刀などの柄(つか)を刀に近い方を持って短めに使うさま

をめく=カ行四段動詞、わめく、大声で叫ぶ

「それでは大将軍と組み討ちせよということだな。」と(能登殿は)悟って、武器の柄を短めに持って、源氏の船に次々に乗り移り、わめき叫んで攻め戦った。


判官(はんぐわん)を見知りたまは    、物の具のよき武者を、判官かと目をかけ馳せ回る。

判官=源義経

たまは=補助動詞ハ行四段、尊敬語。動作の主体である能登殿(教経)を敬っている

ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形

ば=直前に已然形が来ており①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている

ば=強調の係助詞、意味は強調なので訳す際にたいてい無視する

目をかく=注意して見る、気にかける

馳せ=サ行下二段動詞「馳す」の連用形。急いで~する、かけて行く

(しかし能登殿は)判官(源義経)の顔をお見知りでないので、(身に着けている)武具の立派な武者を、判官かと見当をつけて駆け回った。

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平家物語『能登殿の最期』まとめ