枕草子『ありがたきもの』解説・品詞分解

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原文・現代語訳のみはこちら枕草子『ありがたきもの』現代語訳


ありがたきもの、舅(しゅうと)にほめらるる婿。また、姑(しゅうとめ)に思はるる嫁の君。

ありがたき=ク活用の形容詞「有り難し」の連体形、めったにない、珍しい

らるる=受身の助動詞「らる」の連体形、接続は未然形(四段・ナ変・ラ変動詞以外の未然形)。「らる」の接続は未然形の中でも語尾の発音が「e(エ)・i(イ)」のものである。

るる=受身の助動詞「る」の連体形、接続は未然形(四段・ナ変・ラ変動詞の未然形)。「る」の接続は未然形の中でも語尾の発音が「a(ア)」のものである。

「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味がある

めったにないもの、舅(妻の父)にほめられる婿。また、姑(夫の母)に大切に思わられるお嫁さん。


毛のよく抜くる銀の毛抜。主そしら 従者(ずさ)。

抜くる=カ行下二動詞「抜く」の連体形

そしら=ラ行四段動詞「そしる」人のことを悪く言う、非難する

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

毛のよく抜ける銀の毛抜き。主人のことを悪く言わない召使い。


つゆのくせなきかたちありさますぐれ、世にふる程、いささかのきずなき。

つゆ=「つゆ」の後に打消語(否定語)を伴って、「まったく~ない・少しも~ない」となる重要語。ここでは「なき」が打消語

なき=ク活用の形容詞「無し」の連体形。直後に人(体言)が省略されているので連体形(体言に連なる形)となっている

かたち=名詞、姿、外形、顔つき

ありさま=名詞、態度、ふるまい、姿。様子、状態

ふる=ラ行上二動詞「経(ふ)」の連体形、時がたつ、年月が過ぎる

少しの癖もない人。容貌・性質・態度がすぐれ、世を過ごす間、少しも欠点のない人。


同じ所に住む人の、かたみに 恥ぢかはし、いささかのひまなく用意し たりと思ふが、

同じところに住む人=作者(清少納言)と同じ所で宮仕えして住んでいる女房のこと

互(かたみ)に=副詞、互いに、かわるがわる、交互に

恥ぢかはし=サ行四段動詞「恥かはす」の連用形、互いに相手を意識して恥ずかしがる。

ひま=名詞、すきま、油断。物と物との間。余暇

用意し=サ変動詞「用意す」の連用形、「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」
用意=名詞、心づかい、注意、用心。準備すること、支度

たり=存続の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

同じ所に宮仕えている人で、お互いに気をつかって、少しの隙もなく、気を配っていると思う人が、


つひに見え  こそ かたけれ

見え=ヤ行下二動詞「見ゆ」の未然形、見える。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれたりもしており、「見ゆ」には多くの意味がある。

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び

かたけれ=ク活用の形容詞「難し」の已然形、めったにない、まれである。難しい。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び

最後まで欠点を見せないということは、めったにない。



物語、集など書き写すに、本に墨つけ

写す=サ行四段、連体形

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形。こと(体言)が省略されているので連体形(体言に連なる形)となっていると思われる。

物語や歌集などを書き写すときに、その原本に住みをつけないということ(も難しい/めったにない)。


よき草子などはいみじう 心して書け

草子=名詞、綴じ本、冊子(さっし)

いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても

心し=サ変動詞「心す」の連用形、気を付ける、用心する、注意する。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく

良い本などは、たいそう注意して書くのだが、


必ずこそ 汚げに なる めれ

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び

汚げに=ナリ活用の形容動詞「汚げなり」の連用形

なる=ラ行四段動詞「成る」の終止形

めれ=推定の助動詞「めり」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。視覚的なこと(見たこと)を根拠にする推定。ちなみに推定の助動詞「なり」は聞いたことを根拠にする推定。

必ず(墨などがついて)汚らしくなるようだ


男女を言は女どちちぎり深くて語らふ人の、末までなかよき人、かたし。

ば=強調の係助詞。意味は強調なので無視して訳す。

じ=打消意志の助動詞「じ」の終止形

女どち=名詞、オな動詞、女の仲間。「どち」は接尾語

ちぎり=名詞、約束

語らふ=ハ行四段動詞「語らふ」の連体形、仲良く交際する。語り合う

男女の仲(が長続きしないこと)は言うまでもないが、女同士でも、深く約束をして仲良く交際している人で、最後まで仲の良い人はめったにいない。