「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
※私立中学~高校初級レベル向けの解説です。
原文・現代語訳のみはこちら徒然草『さしたる事なくて~』現代語訳
さしたる事なくて人のがり 行くは、よからぬ事なり。
なく(無く)=ク活用の形容詞「なし」の連用形
人のがり=人の許へ、人のいる所へ
行く=カ行四段活用の動詞「行く」の連体形、「行く」の後には「事」が省略されており、「行くことは・行くのは」というふうに訳す。ちなみに、直後に体言(ここでは「事」)があるため連体形(体言に連なる形)となっている。
よから(良から)=ク活用の形容詞「よし」の未然形、直後に打消し・否定の意味を表す「ぬ」という助動詞が来ているため未然形となっている。
これという用事もなく、人の所へ行くのは、良くないことである。
用ありて行きたりとも、その事はてなば、とく 帰るべし。
あり=ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
行き=カ行四段動詞「行く」の連用形
はて(果て)=タ行下二段動詞「果つ」の連用形
とく(疾く)=ク活用の形容詞「疾し」の連用形、直後に用言(動詞:帰る)が来ているため連用形(用言に連なる形)となっている。
帰る=ラ行四段活用の動詞「帰る」の終止形
用事があっていったとしても、その用事が終わってしまったのならば、早く帰るのがよい。
久しく ゐたる、いとむつかし。
久しく=シク活用の形容詞「久し」の連用形
ゐ=ワ行上一動詞「居(ゐ)る」の連用形。すわる。とまる、とどまる。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」と覚える。
むつかし(難し)=シク活用の形容詞「むつかし」の終止形
いつまでも長居しているのは、たいそううっとうしい。
人と向かひたれば、詞おほく、身もくたびれ、心もしづかならず、よろづのことさはりて時を移す。互ひのため益なし。
向かひ=ハ行四段活用の動詞「向かふ」の連用形、「向かい合う・対座する」
おほく(多く)=ク活用の形容詞「多し」の連用形
くたびれ=ラ行下二段の動詞「くたびる」の連用形
しづかなら(静か・閑か)=ナリ活用の形容動詞「しづかなり」の未然形
さはり(障り)=ラ行四段活用「さはる」の連用形
移す=サ行四段活用「移す」の終止形
なし(無し)=ク活用の毛用紙「なし」の終止形
人と向き合っていると、口数も多くなり、体もくたびれ、心も平穏ではなく、あらゆることに不都合が生じて、時間を(むだに)過ごす。お互いにとって利益がない。
いとはしげに 言はんもわろし。
いとはしげに(厭はしげ)=ナリ活用の形容動詞「いとはしげなり」の連用形
言は=ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形。直後に助動詞「む」の音便化した形「ん」が来ているため、未然形となっている。
わろし=ク活用の形容詞「わろし」の終止形。「悪い」という意味ではなく、「良くない・普通より劣る」という意味なので注意。
(だからと言って、客に対して)いやそうに話をするのもよくない。
心づきなき事あらん折は、なかなか、その由をも言ひてん。
心づきなき=ク活用の形容詞「心づきなし」の連体形
あら=ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形。直後に助動詞「む」の音便化した形「ん」が来ているため、未然形となっている。
なかなか=副詞、かえって、むしろ
言ひ=ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
気に入らないことがあるような場合は、かえって、その気に入らないわけを言ってしまうのが良い。
同じ心に向かはまほしく思はん人の、つれづれにて、
同じ=シク活用の形容詞「同じ」の連体形。活用表からすると「終止形」なのではないかと思われるが、「同じ」は特別で体言の前に終止形の形で来て「連体形」の役割をする。なのでここでは「連体形」と答えるのが正解。
類似のもので、ク活用の形容詞「多し」があり、「多かり。」と文末に来て「終止形」となるものがある。この場合は「終止形」と答えるのが正解。
向かは=ハ行四段活用の動詞「向かふ」の未然形
思は=ハ行四段の動詞「思ふ」の未然形、直後に助動詞「む」の音便化した形「ん」が来ているため、未然形となっている。
つれづれに=ナリ活用の形容動詞「つれづれなり」の連用形、「何もすることがなく手持ちぶさたなさま・退屈なさま」
(お互いに)同じ気持ちで向き合っていたいと思っている人でが、退屈にしている時で、
『今しばし。今日は心しづかに。』など言はんは、この限りにはあらざるべし。
しづかに=ナリ活用の形容動詞「しづかなり」の連用形
言は=ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形、直後に助動詞「む」の音便化した形「ん」が来ているため、未然形となっている。
あら=ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形、直後に打消し・否定の助動詞「ざる」が来ているため未然形である。
「もうしばらく(居てください)。今日は落ち着いて(語り合いましょう)。」などと言ったとしたら、この限りではないだろう。
阮籍(げんせき)が青き眼、誰にもあるべきことなり。
青き眼=歓迎するようなにこやかな目つき。対義語は「白き眼」=来客を拒むようなにらむ目つき
ある=ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
阮籍(昔中国にいた人物)が青い目(勧化するようなにこやかな目つき)で来客を迎えたというが、(このようなことは)誰にでもあるはずの事である。
そのこととなきに、人の来りて、のどかに 物語して帰りぬる、いとよし。
なき(無き)=ク活用の形容詞「なし」の連体形
来り=ラ行四段の動詞「来る」の連用形
のどかに=ナリ活用の形容動詞「のどかなり」の連用形
物がたりし=サ行変格活用の動詞「物がたりす」の連用形
帰り=ラ行四段活用の動詞「帰る」の連用形
よし(良し)=ク活用の形容詞「よし」の終止形
これという用事もないのに、人が訪問して着て、のんびりと話をして帰ってしまうのもたいそうよい。
また、文も、『久しく 聞こえさせねば』などばかり言ひおこせたる、いとうれし。
久しく=シク活用の形容詞「久し」の連用形
聞こえさせ=サ行下二段活用の動詞「聞こえさす」の未然形。直後に打消し・否定の助動詞「ね」が来ているため未然形である。意味:「申し上げる・(手紙などを)差し上げる」謙譲語
言ひおこせ=サ行下二段活用の動詞「言ひおこす」の連用形。意味:「言ってよこす・手紙などで言ってくる」
うれし=シク活用の形容詞「うれし」の終止形
また、手紙でも、「ひさしく手紙なども差し上げていませんでしたので(ご無沙汰しておりましたので)」などとだけ言ってよこしたのも、たいそううれしい。