「黒=原文」・「青=現代語訳」
解説・品詞分解はこちら枕草子『はしたなきもの』解説・品詞分解
はしたなきもの。異人(ことびと)を呼ぶに「我ぞ」とてさし出でたる。物など取らする折はいとど。
体裁の悪いもの。他の人を呼んでいるのに、「自分を呼んでいる。」と思って出しゃばった場合。物などをくれる場合はいっそう(体裁が悪い)。
おのづから人の上などうち言ひ、そしりたるに、
たまたま、人の事をちょっと口に出し、悪く言ったときに、
幼き子どもの聞き取りて、その人のあるに言ひ出でたる。
幼い子供たちが聞き覚えて、その当人がいるときに言い出した場合。
あはれなる事など人の言ひ出で、うち泣きなどするに、げにいとあはれなりなど聞きながら、
悲しい話などを人が話し出して、泣きなどする時に、本当にたいそう悲しいなどと思い聞くが、
涙のつと出で来ぬ、いとはしたなし。
涙が急に出て来ないのは、たいそう間が悪い(あるいは、きまりが悪い)。
泣き顔つくり、気色ことになせど、いとかひなし。
泣き顔をし、悲しい様子にするが、全く無駄である。
めでたき事を見聞くには、まづただ出で来(き)にぞ出で来る。
(そのくせ)すばらしいことを見聞きする場合には、真っ先に涙がとめどなく出てくる。