青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
問題はこちら『不顧後患(後ろの憂へを顧みず)』問題
不レ顧二ミ後ロノ患一ヘヲ=うしろのうれへをかへりみず。自分の後ろに災いが迫っていることに気付かない。
呉王欲レシ伐レタント荊ヲ、告二ゲテ其ノ左右一ニ日ハク、「敢ヘテ有二ラバ諫ムル者一死セント。」
呉王荊を伐(う)たんと欲し、其の左右に告げて日はく、「敢(あ)へて諫(いさ)むる者有らば死せん。」と。
呉王は荊を討とうとして、側近たちに告げて言うことには、「(荊を討つことを中止するよう、)どうしても私を諌(いさ)める者がいるならば、死罪にする。」と。
舎人ニ有二リ少儒子ナル者一。欲レスルモ諫メント不レ敢ヘテセ。
舎人に少儒子(じゅし)なる者有り。諫めんと欲して敢へてせず。
※「不二敢ヘテA一(せ)」=しいて(無理に)Aしようとはしない。
そば仕えしている者の中に雑用をする少年がいた。(この少年は)諌めようと思ったが無理に諌めようとはしなかった。
則チ懐レキ丸ヲ操レリテ弾ヲ、遊二ブ於後園一ニ。露沾二ス其ノ衣一ヲ。如レキ是クノ者三旦ナリ。
即ち丸を懐(いだ)き弾(ゆみ)を操(と)りて、後園に遊ぶ。露(つゆ)其の衣を沾(うるほ)す。是(か)くのごとき者(こと)三旦(さんたん)なり。
少年はそこで懐(ふところ)にはじき弓の弾を入れ、はじき弓を手に持って宮殿の裏庭を歩き回った。露がその少年の衣をぬらした。三日間毎朝このようなことをした。
呉王日ハク、「子来タレ。何ゾ苦シミテ沾レスコト衣ヲ如レキト此クノ。」
呉王日はく、「子来たれ。何ぞ苦しみて衣を沾すこと此(か)くのごとき。」と。
呉王が言うことには、「お前、(こちらに)来なさい。どうしてつらい思いをして、そのように衣をぬらしているのか。」と。
対ヘテ日ハク、「園中ニ有レリ樹。其ノ上ニ有レリ蝉。蝉高居シ悲鳴シテ飲レミ露ヲ、不レル知三ラ蟷螂ノ在二ルヲ其ノ後一ロニ也。
対へて日はく、「園中に樹有り。其(そ)の上に蝉(せみ)有り。蝉高居し悲鳴して露を飲み、蟷螂(たうらう)の其の後ろに在(あ)るを知らざるなり。
(少年が)答えて言うことには、「お庭の中に樹があります。その上に蝉がいます。蝉は高いところに止まって高い声で鳴いて露を飲み、蟷螂(かまきり)が自分の後ろにいることに気がつかないのです。
蟷螂委身曲附シ、欲レシテ取レラント蝉ヲ、而不レル知三ラ黄雀ノ在二ルヲ其ノ傍一ラニ也。
蟷螂委身曲附(ゐしんきょくふ)し蝉を取らんと欲して、黄雀(くわうじゃく)の其の傍(かたは)らに在るを知らざるなり。
蟷螂は身をかがめて脚を縮め、蝉を取ろうとして、黄雀(=スズメのこと)が自分のそばにいることに気がつかないのです。
黄雀延レベ頸ヲ、欲レシ啄二マント蟷螂一ヲ、而不レル知三ラ弾丸ノ在二ルヲ其ノ下一ニ也。
黄雀頸(くび)を延べ蟷螂を啄(ついば)まんと欲して、弾丸(だんぐわん)の其の下に在るを知らざるなり。
黄雀は頸を伸ばして蟷螂をついばもうとして、はじき弓の弾が自分の下にあるのに気がつかないのです。
此ノ三者ハ、皆務メテ欲レシ得二ント其ノ前利一ヲ、而不レル顧二ミ其ノ後ロ之有一レルヲ患ヘ也ト。」
此(こ)の三者(さんしゃ)は皆務めて其の前利(ぜんり)を得んと欲して、其の後ろの患(うれ)へ有るを顧(かへり)みざるなり。」と。
この三者は、皆ひたすら自分の目の前にある利益を得ようとして、自分の後ろに災いが迫っていることに気付かないのです。」と。
呉王日ハク、「善キ哉ト。」乃チ罷二ム其ノ兵一ヲ。
呉王日はく、「善きかな。」と。乃ち其の兵を罷む。
※哉=感嘆。「~だなあ」
呉王が言うことには、「良い事を言うなあ。」と。そこで、(呉王は)刑を討つのをやめたのだった。
問題はこちら『不顧後患(後ろの憂へを顧みず)』問題