『知音(ちいん)』原文・書き下し文・現代語訳

青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字

 

知音=よく心を知りあっている人。親友

伯牙鼓、鍾子期聴

伯牙(はくが)琴を鼓し、鍾子期(しょうしき)之を聴く。

 

伯牙が琴を弾き、鍾子期がそれを聴く。

 

 

リテスルニ而志在太山

琴を鼓するに方(あた)たりて、志(こころざし)太山に在り。

※「方リテ」=~(する)にあたって、~(する)ときに

(伯牙が)琴を弾くときに、(伯牙の)心が太山にある。

 

 

鍾子期曰ハク、「善哉-乎、鼓スルコト。巍巍乎トシテシト太山。」

鐘子期曰はく、「善きかな、琴を鼓すること。巍巍(ぎぎ)乎(こ)として太山のごとし」と。

※「哉-乎」=詠嘆。

「若」=比況、「ごとし」、「~のようだ」。

二つとも書き下し文では平仮名。

(そのときに、)鍾子期は、「すばらしいなあ、(あなたが)琴を弾くのは。高く険しくそびえている感じで、(まるでその音は)太山のようだ。」と言った。

 

 

少選之間ニシテ、而志在流水

少選(しばらく)の間にして、志流水に在り。

 

しばらくして、(伯牙の)心が流水にある。

 

 

鍾子期又曰ハク、「善哉-乎、鼓スルコト。湯湯乎トシテシト流水。」

鐘子期又曰はく、「善きかな、琴を鼓すること。湯湯(しゃうしゃう)乎(こ)として流水のごとし。」と。

 

(そのときに、)鍾子期はまた、「すばらしいなあ、(あなたが)琴を弾くのは。水が盛んに流れているようで、(まるでその音は)流水のようだ。」と言った。

 

 

鍾子期死。伯牙破、終身不一レ

鐘子期死す。伯牙琴を破(やぶ)り絃を絶(た)ち、終身復(ま)た琴を鼓せず。

※「不復」=部分否定、「復た~ず」、「二度とは~ない。」

鍾子期が亡くなった。伯牙は琴を壊し、絃を断ち切り、生涯二度と琴を弾かなかった。

 

 

以為ヘラクシト一レスルニ

以為(おも)へらく世に復た為(ため)に琴を鼓するに足る者無しと。

※「以為ヘラク」=~だと思う。思うことには~。

(伯牙が)思うことには、「この世に、琴を弾いて聴かせるのに十分な者は、他にいない。」と。

※琴の音だけで自分の心境を理解してくれる鐘子期のような自分のよき理解者はもういないと思った。