源氏物語「須磨には、いとど心づくしの秋風に~」問題の解答

『須磨・心づくしの秋風』
「青字=解答」「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら源氏物語「須磨には、いとど心づくしの秋風に~」問題


須磨には、いとど心づくしの秋風に、海はすこし遠けれど、行平の中納言の、「関吹き越ゆる」と言ひけむ浦波、夜々はげにいと近く聞こえて、またなくあはれなるものは、かかる所の秋なりけり

御前にいと人少なにて、うち休みわたれるに、一人目を覚まして、枕をそばだてて四方の嵐を聞き給ふに、波ただここもとに立ち来る心地して、涙落つともおぼえぬに、枕浮くばかりになりにけり。

琴をすこしかき鳴らし給へるが、我ながらいとすごう聞こゆれば、弾きさし給ひて

恋ひわびて  泣く音にまがふ  浦波は  思ふ方より  風や吹くらむ

と歌ひ給へに、人々おどろきて、めでたうおぼゆるに、忍ばれであいなう起きゐつつ、鼻を忍びやかにかみわたす


問題1.①いとど、②心づくしの秋風、⑥すごう、⑧恋ひわび、⑨まがふ、⑫おどろき、のここでの意味を答えよ。

ますます・いよいよ
物思いを誘う秋風
心づくし=名詞、深く気をもむこと、さまざまに思い悩むこと
もの寂しく
すごう=ク活用の形容詞「すごし」の連用形が音便化したもの。もの寂しい、おそろしい、恐ろしいぐらい優れている
恋に思い悩み・恋しんでつらく思い
恋ひわび=バ行上二動詞「恋ひ侘ぶ」の連用形、恋に思い悩む、恋しんでつらく思う「侘ぶ(わぶ)」=つらく思う、困る
似通っている
目を覚まし・起き


問題2.③けむ、⑩らむ、⑪る、の文法的説明として、次の記号から適当なものを一つ選んで答えよ。(注:意味だけ書かれているものは全て助動詞である)
ア.受身  イ.尊敬  ウ.自発  エ.可能  オ.過去  カ.存続  キ.動詞の一部  ク.過去推量  ケ.過去の伝聞  コ.過去の婉曲  サ.現在推量  セ.現在の伝聞  ソ.現在の婉曲

ケ.過去の伝聞
けむ=過去の伝聞の助動詞「けむ」の連体形、接続は連用形。基本的に「けむ」は文末に来ると「過去推量・過去の原因推量」、文中に来ると「過去の伝聞・過去の婉曲」
サ.現在推量
らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。基本的に「らむ」は文末に来ると「現在推量・現在の原因推量」、文中に来ると「現在の伝聞・現在の婉曲」
カ.存続
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形


問題3.「⑬忍ばれで」を例にならって品詞分解し、説明せよ。また、現代語訳も答えよ。

例:「聞 き/し/歌。」
聞き=動詞・四段・連用形
し=助動詞・過去・連体形
歌=体言

⑬品詞分解:「忍 ば/れ/で
忍ば=動詞・四段・未然形
れ=助動詞・可能・未然形
で=接続助詞

忍ば=バ行四段動詞「忍ぶ」の未然形、我慢する、こらえる。人目を忍ぶ、目立たない姿になる

れ=可能の助動詞「る」の未然形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味がある。平安以前では下に打消が来て「可能」の意味で用いられた。平安以前では「可能」の意味の時は下に「打消」が来るということだが、下に「打消」が来ているからといって「可能」だとは限らない。鎌倉以降は「る・らる」単体でも可能の意味で用いられるようになった。

で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。

⑬現代語訳:(悲しさ・寂しさなどを)こらえられず・我慢できず


問題4.「④またなくあはれなるものは、かかる所の秋なりけり」、「⑤うち休みわたれるに」、「⑦弾きさし給ひて」、「⑭あいなう起きゐつつ、鼻を忍びやかにかみわたす」、の現代語訳を答えよ。

またとなくしみじみと心にしみて感じられるものは、こういう土地の秋なのであった
またなく=ク活用の形容詞「またなし」の連用形、またとない、二つとない

あはれなる=形容動詞「あはれなり」の連体形。「あはれ」はもともと感動したときに口に出す感動詞であり、心が動かされるという意味を持つ。しみじみと思う、しみじみとした情趣がある

けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断

(その人たちも)全員眠っている時に
わたれ=補助動詞ラ行四段「わたる」の已然形、一面に~する、全員~する。~し続ける、絶えず~する

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

途中で引くのをおやめになって
弾きさし=サ行四段動詞「弾き止す」の連用形。「止す(さす)」は接尾語、~しかける、途中でやめる、と言った意味がある

わけもなく起き上がっては、人目を忍んで鼻を各々かむのである
あいなう=ク活用の形容詞「あいなし」の連用形が音便化したもの、わけもなく。つまらない。気に食わない。

つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、の意味があり、ここでは①反復「~しては~」の意味だと思われる。

忍びやかに=ナリ活用の形容詞「忍びやかなり」の連用形、ひそかに、そっと、人目を忍ぶ様子だ。

わたす=補助動詞サ行四段「わたす」の終止形、各々が~する。一面に~する。ずっと~する。


源氏物語「須磨には、いとど心づくしの秋風に~」解説・品詞分解

源氏物語『須磨・心づくしの秋風』まとめ