無名抄『関路の落葉』解説・品詞分解

「黒=原文」・「赤=解説」「青=現代語訳」
作者:鴨長明(かものちょうめい)
原文・現代語訳のみはこちら無名抄『関路の落葉』現代語訳

建春門院(けんしゅんもんいん)の殿上の歌合に、関路落葉(せきじのらくよう)といふ題に、頼政卿(よりまさきょう)の歌に、

建春門院(後白河天皇の女御、平滋子のこと)の宮殿の階上で催された歌合に、「関路落葉」という題が出された時に、頼政卿の(作った)歌に、


都には  まだ青葉にて  見しかども  紅葉散りしく  白川の関

しか=過去の助動詞「き」の已然形、接続は連用形

ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく

散りしく=カ行四段動詞「散りしく」の連体形、(花や葉が)散って一面に敷きつめる

白川の関=現在の福島県にあった関所。歌枕
※歌枕=和歌で用いられる言葉の中でも特に使われる名所・地名などのこと

都ではまだ(夏の)青葉として見たけれども、(ようやく到着した今では、季節は秋に変り、)紅葉が一面に散っている白河の関であることだ。


と詠ま 侍り を、

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味がある。ここでは文脈判断か、貴人が主語であることから「尊敬」の意味と判断する。動作の主体である頼政を敬っている。地の文なので作者からの敬意。

侍(はべ)り=補助動詞ラ変「侍り」の連用形、丁寧語。丁寧語は言葉の受け手を敬っている。地の文なので作者が読者を敬っている。
※「候ふ・侍(はべ)り」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
※補助動詞=用言などの直後に置いて、その用言に少し意味を添えるように補助する動詞。英語で言う助動詞「canやwill」みたいなもの。
※本動詞=単体で意味を成す動詞、補助動詞ではないもの。
英語だと、「need」には助動詞と通常の動詞としての用法があるが、「候ふ・侍(はべ)り」も意味は違うがこれみたいなもの

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

とお詠みになりましたが、


そのたびこの題の歌あまた詠みて、当日まで思ひわづらひて、

その時(頼政は先程の歌以外にも)この題の歌をたくさん読んで、歌合せの当日まで思い悩んで、


俊恵を呼びて見せ合はせ けれ 

見せ合はす=見比べさせる

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

俊恵を呼んで見比べさせたところ、


「この歌は、かの能因が『秋風ぞ吹く白川の関』といふ歌に似て侍り

侍(はべ)り=補助動詞ラ変「侍り」の終止形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である頼政を敬っている。

「この歌は、あの能因の詠んだ『秋風ぞ吹く白川の関』という歌に似ています。
※「都をば  霞(かすみ)とともに  立ちしかど  秋風ぞ吹く  白川の関」
訳:春に立つ霞とともに私も都を旅だったが、(ようやく到着した今では、季節は秋に変り、)もう秋風が吹いているよ。この白河の関は。
掛詞:「たつ」が「霞が立つ」という意味と「旅立つ」に掛けられている。
縁語:「立つ」は「霞」の縁語でもある


されども、これは出で映えすべきなり

べき=推量の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

けれども、これは(歌合せの席で)見栄えがする歌でしょう。


かの歌なら  、かくもとりなし  と、べしげに詠めとこそ見えたれ

なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形

ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく

とりなし=サ行四段動詞「取り成す」の連用形、うまく取り繕う、調子を合わせる。手に取って変化させる。

て=強意の助動詞「つ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

べしげに=ナリ活用の形容動詞「べしげなり」の連用形、納得いくように、もっともらしい

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

たれ=完了の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び。

あの能因の歌とは違うが、このようにうまく取り繕うとして、納得いくように読んでいると思われました。


たりとて難とすべきさまはあら。」と計らひけれ 

たり=存続の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は連体形。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

似ているからと言って難点としなければならない歌の様子ではありません。」と(俊恵が)判定したので、


さし寄せて乗ら ける時、「貴房(きぼう)の計らひを信じて、さらば、これを出だすべき  こそ

さし寄せ=サ行下二段動詞「さし寄す」の連用形、そばに寄せる。「さし」は接頭語であり、あまり気にしなくて良い。

れ=尊敬の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味がある。ここでは文脈判断か、貴人が主語であることから「尊敬」の意味と判断する。動作の主体である頼政を敬っている。地の文なので作者からの敬意。

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

べき=意志の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

こそ=強調の係助詞、結びは已然形となるが、ここでは省略されている。係り結びの省略。「あれ・侍れ」などが省略されていると考えられる。

牛車をそばに寄せてお乗りになった時、「あなたの判定を信じて、それでは、この歌を出そうと思います。


後の咎(とが)かけ申す し。」と言ひかけて出でられ  けり

咎(とが)=名詞、責めを負うこと、罪。とがめなければならない更衣、過ち

ば=係助詞、訳す際に無視しても構わない。

申す=補助動詞サ行四段「申す」の終止形、謙譲語。動作の対象である俊恵を敬っている。この敬語を使った頼政からの敬意。

べし=推量の助動詞「べし」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある

られ=尊敬の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。「らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味がある。ここでは文脈判断か、貴人が主語であることから「尊敬」の意味と判断する。動作の主体である頼政を敬っている。

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

(歌合せに敗れた場合の)後の責任をあなたに負わせ申し上げるでしょう。」と(頼政は)話しかけてお出になられた。


そのたび、この歌思ひのごとく出で映えして勝ち けれ 

ごとく=比況の助動詞「ごとし」の連用形

に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

その時の歌合で、この歌が思った通り見栄えがして勝ってしまったので、


帰りてすなはちよろこび 言ひ遣はし たり ける

よろこび=名詞、霊を言うこと、お礼。喜ぶこと。祝い事。官位が昇進すること

言ひ遣はし=サ行四段動詞「言ひ遣はす」の連用形、人を送って言葉を伝える。
遣はす=サ行四段動詞、派遣する、使いを送る

たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となるが、省略されている。係り結びの省略。「言ふ」などが省略されている。

帰ってすぐにお礼の言葉を人を送って伝えたということだ。


「見るところありて、しか 申し たり しか 

然(しか)=副詞、そのように、そのとおりに

申し=サ行四段動詞「申す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象である頼政を敬っている。

たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形

しか=過去の助動詞「き」の已然形、接続は連用形

ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく

「すぐれていると評価できるところがあったので、あのように申し上げましたが、


勝負聞かざり ほどは、あいなくよそにて胸つぶれ侍り に、

ざり=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形。もう一つの「し」も同じ

あいなく=ク活用の形容詞「あいなし」の連用形、わけもなく、むやみやたらに、言いようもなく。おもしろみがない。気に食わない。

侍り=補助動詞ラ変「侍り」の連用形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である頼政を敬っている。

勝負の結果を聞かない間は、言いようもなく他人事ながら心配ではらはらしておりましたが、


いみじき高名したりなむ、心ばかりは覚え侍り 。」

いみじき=シク活用の形容詞「いみじ」の連体形、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても

たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形

なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び

侍り=補助動詞ラ変「侍り」の連用形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である頼政を敬っている。

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。係り結び。

(結果を聞いて)たいそう手柄を立てたと、心の中では感じておりました。」


俊恵は語りて侍り 

ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び

侍り=ラ変動詞「侍り」の連用形、「あり・居り」の丁寧語。言葉の受け手(地の文なので読み手)である読者を敬っている。作者からの敬意

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

と俊恵を語っておりました。