無名抄『関路の落葉』現代語訳

「黒=原文」・「青=現代語訳」
作者:鴨長明(かものちょうめい)
解説・品詞分解はこちら無名抄『関路の落葉』解説・品詞分解

問題はこちら無名抄『関路の落葉』問題


建春門院(けんしゅんもんいん)の殿上の歌合に、関路落葉(せきじのらくよう)といふ題に、頼政卿(よりまさきょう)の歌に、

建春門院(後白河天皇の女御、平滋子のこと)の宮殿の階上で催された歌合に、「関路落葉」という題が出された時に、頼政卿の(作った)歌に、


都には  まだ青葉にて  見しかども  紅葉散りしく  白川の関

都ではまだ(夏の)青葉として見たけれども、(ようやく到着した今では、季節は秋に変り、)紅葉が一面に散っている白河の関であることだ。


と詠まれ侍りしを、そのたびこの題の歌あまた詠みて、当日まで思ひわづらひて、


とお詠みになりましたが、その時(頼政は先程の歌以外にも)この題の歌をたくさん読んで、歌合せの当日まで思い悩んで、


俊恵を呼びて見せ合はせければ、

俊恵を呼んで見比べさせたところ、


「この歌は、かの能因が『秋風ぞ吹く白川の関』といふ歌に似て侍り。

「この歌は、あの能因の詠んだ『秋風ぞ吹く白川の関』という歌に似ています。
※「都をば  霞(かすみ)とともに  立ちしかど  秋風ぞ吹く  白川の関」
訳:春に立つ霞とともに私も都を旅だったが、(ようやく到着した今では、季節は秋に変り、)もう秋風が吹いているよ。この白河の関は。
掛詞:「たつ」が「霞が立つ」という意味と「旅立つ」に掛けられている。
縁語:「立つ」は「霞」の縁語でもある


されども、これは出で映えすべき歌なり。

けれども、これは(歌合せの席で)見栄えがする歌でしょう。


かの歌ならねど、かくもとりなしてむと、べしげに詠めるとこそ見えたれ。

あの能因の歌とは違うが、このようにうまく取り繕うとして、納得いくように読んでいると思われました。


似たりとて難とすべきさまにはあらず。」と計らひければ、

似ているからと言って難点としなければならない歌の様子ではありません。」と(俊恵が)判定したので、


車さし寄せて乗られける時、「貴房(きぼう)の計らひを信じて、さらば、これを出だすべきにこそ。

牛車をそばに寄せてお乗りになった時、「あなたの判定を信じて、それでは、この歌を出そうと思います。


後の咎(とが)をばかけ申すべし。」と言ひかけて出でられにけり。

(歌合せに敗れた場合の)後の責任をあなたに負わせ申し上げるでしょう。」と(頼政は)話しかけてお出になられた。


そのたび、この歌思ひのごとく出で映えして勝ちにければ、

その時の歌合で、この歌が思った通り見栄えがして勝ってしまったので、


帰りてすなはちよろこび 言ひ遣はしたりけるとぞ。

帰ってすぐにお礼の言葉を人を送って伝えたということだ。


「見るところありて、しか申したりしかど、

「すぐれていると評価できるところがあったので、あのように申し上げましたが、


勝負聞かざりしほどは、あいなくよそにて胸つぶれ侍りしに、

勝負の結果を聞かない間は、言いようもなく他人事ながら心配ではらはらしておりましたが、


いみじき高名したりとなむ、心ばかりは覚え侍りし。」とぞ俊恵は語りて侍りし。

(結果を聞いて)たいそう手柄を立てたと、心の中では感じておりました。」と俊恵を語っておりました。


無名抄『関路の落葉』解説・品詞分解

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