大和物語『生田川(いくたがわ)』問題1

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むかし、津の国にすむ女ありけり。それをよばふ男ふたりなむありける。ひとりはその国にすむ男、姓は菟原になむありける。いまひとりは和泉の国の人になむありける。姓は茅渟となむいひける。かくてその男ども、年齢、顔かたち、人のほど、ただ同じばかりなむありける。

心ざしのまさらむにこそあはめ」 と思ふに、心ざしのほど、ただおなじやうなり。暮るれもろともに来あひ、物おこすれば、ただおなじやうにおこす。 いずれまされりというべくもあらず。女思ひわづらひぬ。この人の心ざしおろかならば、いずれもあふまじけれど、これもかれも、月日を経て家の門に立ちて、よろずに心ざしを見えければ、しわび。これよりもかれよりも、おなじやうにおこする物ども、とりもいれねど、いろいろにもちて立てり。

親ありて、「かく見ぐるしく年月を経て、人の嘆きをいたづらにおふもいとほし。ひとりびとりにあひな、いまひとりが思ひは絶えなむ」といふに、女、「ここにもさ思ふに、人の心ざしのおなじやうなるになむ、思ひわづらひぬる。さらばいかがすべき」 といふに、

そのかみ、生田の川のつらに、女、平張をうちてゐけり。かかれば、そのよばひ人どもを呼びにやりて、親のいふやう、「たれも御心ざしの同じやうなれ、この幼き者なむ思ひわづらひにてはべる。今日いかにまれ、このことを定めむ。あるは遠き所よりいまする人あり。あるはここながらそのいたつきかぎりなし。これもかれもいとほしきわざなり。」という時に、いとかしこくよろこびあへり。

「申さと思ひたまふるやうは、この川に浮きてはべる水鳥を射たまへ。それを射あてたまへらむ人に奉らむ」といふ時に、「いとよきことなり」 と言ひて射るほどに、ひとりは頭の方を射つ。いまひとりは尾の方を射つ。そのかみ、いづれといふべくもあらに、思ひわづらひて、

すみわびぬ  わが身投げてむ  津の国の  生田の川の  名のみなりけり

とよみて、この平張は川にのぞきてしたりければ、づぶりとおち入りぬ。親、あはてさわぎののしるほどに、このよばふ男ふたり、やがて同じ所におち入りぬ。ひとりは足をとらへ、いまひとりは手をとらへて死にけり。そのかみ、親いみじく騒ぎて、取り上げて泣き、ののしりて葬りす。

男どもの親も来にけり。この女のかたはらに、また塚どもつくりてほりうづむ時に、津の国の男の親いふやう、「同じ国の男をこそ、同じ所にはせめ。異国の人の、いかでかこの国の土をばをかすべき」 と言ひてさまたぐる時に、和泉の方の親、和泉の土を舟にはこびて、ここにもて来てなむ、つひにうづみてける。されば、女の墓をば中にて、左右になむ、男の墓ども今もあなる


問題1.①よばふ、④おろかなり、⑤しわぶ、⑬いかにまれ、⑰かしこし、㉕ののしる、のここでの意味を答えよ。







問題2.⑥ぬ、⑭て、⑱む、㉓ぬ、㉗なる、の助動詞の文法的意味として、「ア~シ」の記号から適当なものを一つ選んで答えよ。
ア.推量  イ.意志  ウ.勧誘  エ.婉曲  オ.打消  カ.完了  キ.強意  ク.過去  ケ.断定  コ.存在  サ.伝聞  シ.推定






問題3.③ば、⑧ば、⑪ば、の接続助詞「ば」の意味・用法として適当なものを次の記号から選びなさい。
ア.原因・理由   イ.偶然条件   ウ.恒常条件   エ.仮定条件




問題4.⑫はべる、⑮いまする、⑲たまふる、⑳たまへ、㉒奉ら、の敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧のどれか)と誰から誰に対しての敬意の表現であるかを、例にならって答えよ。


単語


敬語の種類


誰から


誰に対して


(例)たまふ


尊敬語


作者


男達


⑫はべる


 


 


 


⑮いまする


 


 


 


⑲たまふる


 


 


 


⑳たまへ


 


 


 


㉒奉ら


 


 


 


問題5.「⑩ここにもさ思ふに」、の「ここ」の内容を明らかにして現代語訳を答えよ。


問題6.⑨絶えなむ、㉑たまへらむ、を例にならって品詞分解し、説明せよ。

例:「い は/れ/ず。」
いは=動詞・四段・未然形
れ=助動詞・受身・未然形
ず=助動詞・打消・終止形

⑨品詞分解:「絶 え な む」







㉑品詞分解:「た ま へ ら む」







問題7.「②心ざしのまさらむにこそあはめ」、「⑦いたづらにおふもいとほし」、「⑯あるはここながらそのいたつきかぎりなし」、「㉖いかでかこの国の土をばをかすべき」、の現代語訳を答えよ。


問題8.「㉔すみわびぬ  わが身投げてむ  津の国の  生田の川の  名のみなりけり」の歌について、例にならって、掛詞をあげて説明せよ。

(例:「かれ」に「離れ」と「枯れ」が掛けられている。)

㉔:


問題9.上記の㉔の和歌について、女がこのような和歌を詠み、川に身を投げることに至った理由として最も適切なものを次のア~エの中から選んで答えよ。

ア.二人の男に言い寄られたが、どちらの男と結婚すべきか決められない自分に嫌気がさしたから。
イ.二人の男に言い寄られたが、どう断るべきか思い悩み、その苦しみから逃れたいと思ったから。
ウ.現世では二人の男と結ばれることはないと思い悩んで、あの世で一緒になろうと思ったから。
エ.二人の男どちらと結婚すべきか思い悩み、その苦しみから逃れたいと思ったから。

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