「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
【人物紹介】
本文における斎宮=六条の御息所の娘。梅壺女御。秋好(あきこのむ)中宮。御息所の死後、光源氏が後ろ盾となり冷泉帝のもとに入内し、梅壺女御となった後、正式に中宮となる。
冷泉帝=表向きは桐壷帝と藤壺の息子だが、実は光源氏と藤壺の子。
斎宮(さいぐう)=名詞。天皇の代ごとに選ばれ、伊勢神宮に奉仕する未婚の皇女(みこ)。当然、天皇の代が変わればその任を解かれることになる。
の=格助詞
御母=名詞
御息所(みやすどころ)=名詞
もの思し乱るる=ラ行下二段動詞「もの思し乱る」の連体形、「思ひ乱る」の尊敬語。あれこれ考えて思い乱れる。動作の主体である六条の御息所を敬っている。
慰め=名詞
に=格助詞
も=係助詞
や=疑問の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。係り結びの省略。「せ(サ変動詞の未然形)/む(意志の助動詞の連体形)」が省略されている。
と=格助詞
忍び=バ行上二段動詞「忍ぶ」の連用形
て=接続助詞
出で=ダ行下二段動詞「出づ」の連用形
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
斎宮の御母御息所、もの思し乱るる慰めにもやと、忍びて出で給へるなりけり。
斎宮の御母の御息所(六条の御息所のこと)が、あれこれと思い乱れてお気持ちの慰めにでもしようかと、人目を避けてお出かけになっているのであったのだ。
つれなしづくれ=ラ行四段動詞「つれなしづくる」の已然形、平気なふりをする、そしらぬふりをする
つれなし=ク活用の形容詞、平然としている、素知らぬ顔だ。冷ややかだ、冷淡だ。「連れ無し」ということで、関連・関係がない様子ということに由来する。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく
おのづから=副詞
見知り=ラ行四段動詞「見知る」の連用形
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
つれなしづくれど、おのづから見知りぬ。
何気ないふりを装っているが、(葵の上は乗り主が御息所だと)自然と気づいた。
さばかり=副詞、それほど、そのくらい。それほどまでに。「さ」と「ばかり」がくっついたもの。「さ」は副詞で、「そう、そのように」などの意味がある。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
て=接続助詞
は=係助詞
さ=副詞、そう、その通りに、そのように
な=副詞
「な~そ」で「~するな(禁止)」を表す。
言は=ハ行四段動詞「言ふ」の未然形
せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
そ=終助詞
「さばかりにては、さな言はせそ。」
「それくらい(の身分)では、そのよう口はたたかせるな。」
※六条の御息所は、亡き東宮(皇太子)の妃であった上に、大臣の娘でもあり身分は高かったが、このようなことを葵の上方の供人に言われてしまった。
大将殿=名詞
を=格助詞
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び
豪家=名詞、頼みにする権威、よりどころ。格式高い家、権勢のある家
に=格助詞
は=係助詞
思ひ=ハ行四段動詞「思ふ」の連用形
聞こゆ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の終止形、謙譲語。動作の対象である大将殿(光源氏)を敬っている。
らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
など=副助詞
言ふ=ハ行四段動詞「言ふ」の連体形
を=格助詞
「大将殿をぞ、豪家には思ひ聞こゆらむ。」など言ふを、
「大将殿(光源氏)を権威として頼みに思い申し上げてるのだろう。」などと(葵の上方の供人が)言うのを
そ=代名詞
の=格助詞
御方=名詞
の=格助詞
人=名詞
も=係助詞
混じれ=ラ行四段動詞「混じる・交じる(まじる)」の已然形
れ=存続の助動詞「り」の已然形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
いとほし=シク活用の形容詞「いとほし」の終止形、かわいそうだ、気の毒だ。困る、いやだ。かわいい、いとしい
と=格助詞
見=マ行上一段動詞「見る」の連用形
ながら=接続助詞
その御方の人も混じれれば、いとほしと見ながら、
(葵の上方の供人の中には)その御方(光源氏)に普段仕えている者も交じっているので、(葵の上は六条の御息所の事を)気の毒にと思いながらも、
用意せ=サ変動詞「用意す」の未然形、心づかいをする、注意・用心する。前もって準備する。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「心す」、「愛す」、「ご覧ず」
む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。直後に「こと」などが省略されているため連体形となっている。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。
訳:「気を使う(ような)のも」
も=係助詞
わづらはしけれ=シク活用の形容詞「わづらはし」の已然形、面倒なさま、いとわしい、いやだ
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
知らず顔=名詞
を=格助詞
つくる=ラ行四段動詞「つくる」の終止形
用意せむもわづらはしければ、知らず顔をつくる。
気を遣うのも面倒なので、知らない顔をしている。
つひに=副詞
御車ども=名詞
立て続け=カ行下二段動詞「立て続く」の連用形
つれ=完了の助動詞「つ」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
副車(そえぐるま)=名詞、お供の人の車、随行者に貸し与えられた牛車。人給ひ(ひとだまひ)と同じ意味
の=格助詞
奥=名詞
に=格助詞
おしやら=ラ行四段動詞「押しやる」の未然形
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
て=接続の助動詞
物=名詞
も=係助詞
見え=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の未然形
ず=打消の助動詞「ず」の終止形
つひに、御車ども立て続けつれば、副車の奥におしやられて、物も見えず。
とうとう(葵の上の車が六条の御息所の車を押しのけて)御車の列を立て並べてしまったので、(葵の上の)お供の者が乗る車の後ろに押しやられて、(六条の御息所は)何も見えない。
心やましき=シク活用の形容詞「心疾し(こころやまし)」の連体形、思い通りにならず不満なさま、劣等感から不快を感じるさま
を=格助詞
ば=係助詞
さる=ラ変動詞「然り(さり)」の連体形、そうだ、そうである。適切である、ふさわしい、しかるべきだ。
もの=名詞
然(さ)るもの=もっともなこと、当然なこと。そのようなもの。しかるべきもの
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
て=接続助詞
かかる=連体詞、あるいはラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう
やつれ=名詞、人目を忍ぶ姿、目立たない姿になること。みすぼらしくなること
を=格助詞
それ=代名詞
と=格助詞
知ら=ラ行四段動詞「知る」の未然形
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形
が=格助詞
いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても
ねたき=ク活用の形容詞「ねたし」の連体形、しゃくだ、忌々しい、腹立たしい
こと=名詞
限りなし=ク活用の形容詞「限りなし」の終止形
心やましきをばさるものにて、かかるやつれをそれと知られぬるが、いみじうねたきこと、限りなし。
腹立たしいのは当然として、このような人目を忍ぶ姿をはっきりと知られてしまったことが、ひどく腹立たしいこと、この上ない。
榻(かぢ)=名詞
など=副助詞
も=係助詞
みな=副詞
押し折ら=ラ行四段動詞「押し折る」の未然形
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形
て=接続助詞
すずろなる=ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連体形、意に反して、意に関係なく。むやみやたらである。何の関係もないさま
車=名詞
の=格助詞
筒=名詞
車の筒=轂(こしき)のこと。牛車の車輪の中央にある円木
に=格助詞
うちかけ=カ行下二段動詞「うちかく」の連用形
たれ=存続の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
榻などもみな押し折られて、すずろなる車の筒にうちかけたれば、
榻などもみな押し折られて、本来ある場所とは全く違う車の轂(こしき)に掛けているので、
またなう=ク活用の形容詞「またなし」の連用形が音便化したもの、またとない、二つとない
人わろく=ク活用の形容詞「人悪ろし」の連用形、外聞が悪い、みっともない、体裁が悪い
くやしう=シク活用の形容詞「悔し」の連用形が音便化したもの
何=代名詞
に=格助詞
来(き)=カ変動詞「来(く)」の連用形
つ=強意の助動詞「つ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる
らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。おそらく疑問の係助詞「か」が省略されていて係り結びが起こっている。
と=格助詞
思ふ=ハ行四段動詞「思ふ」の連体形
に=接続助詞
かひなし=ク活用の形容詞「甲斐なし(かひなし)」の終止形、どうしようもない、効果がない、むだだ
またなう人わろく、くやしう、何に来つらむと思ふにかひなし。
またとなく体裁が悪く、悔しく、何のために来てしまったのだろうと思うが、どうしようもない。
続きはこちら源氏物語『車争ひ』品詞分解のみ(4)