伊勢物語『初冠(うひかうぶり)』品詞分解のみ

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 原文・現代語訳のみはこちら伊勢物語『初冠(うひかうぶり)』現代語訳

 

=名詞

=名詞

初冠し=サ変動詞「初冠す」の連用形。  「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」

=接続助詞

奈良の京=名詞

春日の里=名詞

=格助詞

しる=ラ行四段動詞「知る・治る・領る」の連体形、治める、統治する、領有する

由(よし)=名詞、縁、ゆかり

して=格助詞

狩り=名詞

=格助詞

往に=ナ変動詞「往ぬ(いぬ)」の連用形

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

昔、男、初冠して、奈良の京春日(かすが)の里に、しるよしして、狩りに往にけり。

昔、ある男が、元服して、奈良の都の春日の里に、領有している縁で、(そこへ鷹を)狩りに行った。

 

 

=代名詞

=格助詞

=名詞

=格助詞

いと=副詞

なまめい=カ行四段動詞「なまめく」の連用形が音便化したもの。若く美しい。優美である、上品である。「なま」は未熟であるという意味。

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

女はらから=名詞

同胞(はらから)=名詞、兄弟姉妹。同じ腹から生まれて来たということで兄弟姉妹

住み=マ行四段動詞「住む」の連用形

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

=代名詞

=格助詞

=名詞

かいま見=マ行上一段動詞「かいま見る」の連用形。物の隙間からこっそりのぞき見る。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」

=完了の助動詞「つ」の連用形、接続は連用形

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

その里に、いとなまめいたる女はらから住みけり。この男かいま見てけり。

その里に、たいそう若くて美しい姉妹が住んでいた。この男は(その姉妹を)覗き見てしまった。

 

 

思ほえ=ヤ行下二段動詞「思ほゆ」の未然形、自然に思われる、しのばれる。「ゆ」に自発の意味が含まれている

=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

ふる里=名詞

=格助詞

いと=副詞

はしたなく=ク活用の形容詞「はしたなし」の連用形、ふつりあいである、中途半端だ。体裁が悪い

=接続助詞

あり=ラ変動詞「あり」の連用形

けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形

=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

心地=名詞

惑ひ=ハ行四段動詞「惑ふ(まどふ)」の連用形

=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形

 

思ほえず、ふる里にいとはしたなくてありければ、心地まどひにけり。

思いがけなく、この古い都にとても不釣り合いなようすで(この姉妹が)いたので、(男は)心が乱れてしまった。

 

 

=名詞

=格助詞

=カ行上一段動詞「着る」の連用形

たり=存続の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

狩衣(かりぎぬ)=名詞

=格助詞

=名詞

=格助詞

切り=ラ行四段動詞「切る」の連用形

=接続助詞

=名詞

=格助詞

書き=カ行四段動詞「書く」の連用形

=接続助詞

やる=ラ行四段動詞「遣る(やる)」の終止形、送る、届ける。行かせる、進ませる

=代名詞

=格助詞

=名詞

しのぶずり=名詞、乱れ模様の布

=格助詞

狩衣(かりぎぬ)=名詞

=格助詞

なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

=カ行上一段動詞「着る」の連用形

たり=存続の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

男の、着たりける狩衣(かりぎぬ)の裾を切りて、歌を書きてやる。その男、しのぶずりの狩衣をなむ着たりける。

男が、着ていた狩衣の裾を切って、歌を書いておくった。その男は、しのぶずりの狩衣を着ていた。

 

 

 

春日野=名詞

=格助詞

若紫=名詞

=格助詞

すりごろも(摺り衣)=名詞

しのぶの乱れ=名詞

限り=名詞

知ら=ラ行四段動詞「知る」の未然形

=可能の助動詞「る」の未然形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味がある。平安以前では下に打消が来て「可能」の意味で用いられた。平安以前では「可能」の意味の時は下に「打消」が来るということだが、下に「打消」が来ているからといって「可能」だとは限らない。鎌倉以降は「る・らる」単体でも可能の意味で用いられるようになった。

=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

※掛詞…同音異義を利用して、一つの語に二つ以上の意味を持たせたもの。

しのぶ=掛詞、しのぶずりの「しのぶ」と恋い偲ぶ「偲ぶ」が掛けられている。

掛詞を探すときのポイント(あくまで参考)

①ひらがなの部分

②和歌に至るまでの経緯で出て来た単語

③地名などの固有名詞

 

※序詞…ある語句を導き出すために前置きとして述べることば

春日野の若紫のすりごろも(一句・二句・三句)=「しのぶ」を導き出す序詞。序詞は前置きなので、作者の言いたいことは四句以降の部分である。たいてい序詞の最後は「~のように」と訳す。

序詞を探すときのポイント(あくまで参考)

①掛詞の直前 (この和歌が当てはまる)

②句の末尾が「の」 

例:あしびきの/山鳥の尾の/しだり尾の(ここまでが序詞)/ながながし夜を/ひとりかも寝む

③同じ言葉が繰り返して使われている部分 

例:多摩川に/さらす手作り(ここまでが序詞)/さらさらに/なにぞこの児(こ)の/ここだかなしき

 

春日野の  若紫の  すりごろも  しのぶの乱れ  かぎりしられず

春日野の若い紫草で染めたこの狩衣のしのぶずりの乱れ模様のように、(あなた方を)恋しくしのぶ(私の)心の乱れは限りないほどです。

 

 

=格助詞

なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

追いつき=カ行四段動詞「追いつく」の連用形、追いつくようにすぐに

=接続助詞

言ひやり=ラ行四段動詞「言ひ遣る」の連用形

遣る(やり)=ラ行四段動詞、送る、届ける。行かせる、進ませる

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。係り結び。

ついで(序)=名詞、物事の順序、次第。おり、機会

おもしろき=ク活用の形容詞「おもしろし」の連体形、趣深い、風流である。興味深い

こと=名詞

=格助詞

=係助詞

=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

思ひ=ハ行四段動詞「思ふ」の連用形

けむ=過去推量の助動詞「けむ」の連体形、接続は連用形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

となむ追ひつきて言ひやりける。ついでおもしろきことともや思ひけむ。

とすぐに詠んで贈った。(男は自分が一目ぼれをして和歌をすぐさま送ったという)事の次第を趣があることと思ったのだろうか。

 

 

 

みちのく(陸奥)=名詞

=格助詞

しのぶもぢずり=名詞

=代名詞

故(ゆゑ)=名詞

=格助詞

乱れ初(そ)め=マ行下二動詞「乱れ初む(みだれそむ)」の連用形。乱れ始める。「書き初め」の「初め」と同じだと思うと覚えやすい。

そめ=「初め」と「染め」の意味が含まれていると考えられる。「乱れ」と「染め」は「もぢずり」の縁語(縁のある言葉)。

=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形

=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形。「誰ゆゑに(か)」の省略されている係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。よって四句切れ。

=代名詞

なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形

なく=連語。「な」+「く」。

「な」=打消の助動詞「ず」の古い未然形、接続は未然形

「く」=名詞形を作る接尾語

=感動・詠嘆の終助詞、~のになあ、~のであるよ

 

※序詞…ある語句を導き出すために前置きとして述べることば

みちのくのしのぶもぢずり(一句・二句)=「乱れ」を導き出す序詞。序詞は前置きなので、作者の言いたいことは三句以降の部分である。たいてい序詞の最後は「~のように」と訳す。

 

みちのくの  しのぶもぢずり  誰ゆゑに  乱れそめにし  我ならなくに

みちのくのしのぶもじずり(の乱れ模様)のように、誰のせいで(私の心は)乱れ始めたのか。私のせいではないのに。(他ならぬあなたのせいですよ。)

 

 

=格助詞

いふ=ハ行四段動詞「言ふ」の連体形

=名詞

=格助詞

心ばへ=名詞、歌の趣意、意味

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

昔人=名詞

=係助詞

かく=副詞、このように、こんなふうに、こう

いちはやき=ク活用の形容詞「いちはやし」の連体形、激しい、強烈である。すばやい。

みやび(雅)=名詞

=格助詞

なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

=サ変動詞「す」の連用形、する

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

といふ歌の心ばへなり。昔人は、かくいちはやきみやびをなむしける。

という歌の趣意である。昔の人は、このように(勢いの)激しい優雅な振る舞いをしたのである。

 

 

 伊勢物語『初冠(うひかうぶり)』現代語訳