「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら徒然草『奥山に猫またといふもの』現代語訳
問題はこちら徒然草『奥山に猫またといふもの』問題
「奥山に猫またといふものありて、人を食らふ なる。」と、人のいひけるに、
あり=ラ変動詞「あり」の連用形
食らふ=ハ行四段動詞「食らふ」の終止形。直後の「なり」が伝聞の意味だと考えられるため、連体形ではなく終止形である。
なる=伝聞の助動詞「なり」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。直前に来ている活用形が終止形か連体形か分からないためこの「なり」には「断定・存在・推定・伝聞」の四つのどれかと言うことになる。ここは文脈判断。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
「奥山に猫またというものがいて、人を食うそうだ。」と、ある人が言ったところ、
「山なら ね ども、これらにも猫の経上(へあ)がりて、猫またになりて、
なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形
ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形
ども=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく
経上がり=ラ行四段動詞「経上がる」の連用形、年をとって変化する。成りあがる、昇進する
「山ではないが、このあたりにも、猫が年をとって変化して、猫またになって、
人とることはあ なる ものを」といふ者ありけるを、
あ=ラ変動詞「あり」の連体形が音便化して無表記になったもの、「ある」→「あん(音便化)」→「あ」
なる=伝聞の助動詞「なり」の連体形、接続は終止形(ラ変は連体形)。直前に連体形が来ているためこの「なり」には「断定・存在・推定・伝聞」の四つのどれかと言うことになる。
しかし、直前に音便化したものや無表記化したものがくると「推定・伝聞」の意味の可能性が高い。
さらに、近くに音声語(音や声などを表す言葉)が無い場合には、「伝聞」の意味になりがち。なぜなら、この「なり」の推定は音を根拠に何かを推定するときに用いる推定だからである。
ものを=詠嘆の終助詞
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
人を食うことはあるそうだな。」と言う者がいたのを、
何阿弥陀仏とかや、 連歌しける法師の、行願寺の辺にありけるが聞きて、
や=疑問の係助詞、結びは連体形となるが、ここでは省略されている。係り結びの省略。「言ひけむ・言ひける」などが省略されていると考えられる。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。もう一つの「ける」も同じ
の=格助詞、用法は同格。「で」に置き換えて訳すと良い。「法師の、行願寺の辺にありけるが聞きて」→「法師で、行願時のそばにいた法師が聞いて」
何とか阿弥陀仏とか言っただろうか、(名前ははっきり思い出せないが、)連歌をしていた法師で、行願時の辺りにいた法師が(この猫またの噂を)聞いて、
ひとりありか む身は心す べきことに こそと思ひける頃しも、
ありか=カ行四段動詞「歩く(ありく)」の未然形
む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。
訳:「一人で出歩く(ような)身」
心す=サ変動詞「心す」の終止形、気を付ける、用心する。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「音す」、「愛す」、「ご覧ず」
べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となるが、ここでは省略されている。係り結びの省略。「あれ(ラ変動詞已然形」が省略されていると考えられる。
しも=副助詞。強調。ここでは「頃」を強調して、「ちょうどそのころに」と訳すと良い。
一人で出歩く身は気をつけねばいけないことだと思ったちょうどそのころ、
ある所にて夜更くるまで連歌して、ただひとり帰りけるに、
更くる=カ行下二段動詞「更(ふ)く」の連体形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
ある所で夜が更けるまで連歌をして、ただ一人帰った時に、
小川のはたにて、音に聞き し猫また、あやまた ず足もとへふと 寄り来て、
音に聞く=うわさに聞く。有名である。
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
あやまた=タ行四段動詞「過つ(あやまつ)」の未然形、間違える
ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形
ふと=副詞、さっと。不意に、急に。すぐに、たやすく
寄り来(き)=カ変動詞「寄り来(く)」の連用形
小川のほとりで、うわさに聞いた猫またが、狙いたがわず足もとにさっと寄ってきて、
やがてかきつくままに、頸(くび)のほどをくは むとす。
やがて=副詞、すぐに。そのまま。
食は=ハ行四段動詞「食ふ」の未然形
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
す=サ変動詞の終止形。する
そのまま飛びつくやいなや、首のあたりを食おうとする。
肝心もうせて、ふせが むとするに力もなく、足もたたず、小川へころび入りて、
うせ=サ行下二段動詞「失す」の連用形
ふせが=ガ行四段動詞「防ぐ」の未然形
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
正気も失って、防ごうとするが力もなく、足も立たず、小川へ転び入って、
「助けよ や、ねこまた、よやよや」と叫べば、
助けよ=カ行下二段動詞「助く」の命令形
や=間投助詞、呼びかけ。
よや=感嘆詞、おおい
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①か②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
「助けてくれ。猫まただ、おおいおおい。」と叫ぶと、
家々より、松どもともして走りよりて見れ ば、このわたりに見知れ る僧なり。
松ども=名詞、松明(たいまつ)
見れ=マ行上一動詞「見る」の已然形。上一段活用の動詞は「{ ひ・い・き・に・み・ゐ } る」
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味でとる。
見知れ=ラ行四段動詞「見知る」の已然形
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
家々から、(人々が)たいまつをともして走り寄って(この法師を)見ると、このあたりで見知っている僧である。
「こはいかに」とて、川の中より抱(いだ)き起したれ ば、
こ=代名詞、これ、ここ
いかに=副詞、どんなに、どう。「いかに」の中には係助詞「か」が含まれていて係り結びが起こるはずだが省略されている。係り結びの省略。「し給ふ・しつる」などが省略されている。ちなみに、「給(たま)ふ」は尊敬語。
たれ=完了の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味でとる。
「これはいったいどうしたことか。」と(人々が)言って、川の中から抱き起したところ、
連歌の懸物(かけもの)取りて、扇、小箱など、懐に持ちたり けるも、水に入りぬ。
懸物(かけもの)=名詞、歌・連歌・弓などの遊びや勝負事にかける品物。
たり=存続の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
連歌の勝敗をかけた品物を取って、その扇や小箱など、懐に持っていたものも、水に入ってしまった。
希有(けう)にして助かりたるさまにて、はふはふ家に入りに けり。
稀有に=ナリ活用の形容動詞「稀有なり」の連用形、めずらしい、不思議だ
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
這ふ這ふ(はふはふ)=副詞、這うようにして、やっとのことで。慌てふためいて
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
やっとのことで助かったという様子で、這うようにして(自分の)家に入った。
飼ひける犬の、暗けれ ど主を知りて、飛びつきたり けるとぞ。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。もう一つの「ける」も同じ
暗けれ=ク活用の形容詞「暗し」の已然形
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく
たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となるが、ここでは省略されている。係り結びの省略。「言ふ・聞く」などが省略されている。
飼っていた犬が、暗いけれど主人と分かって、飛びついたのだったということだ。
※猫またのうわさを聞いて臆病になった法師が、自分の飼い犬を猫またと錯覚してしまったということ。
問題はこちら徒然草『奥山に猫またといふもの』問題