「青字=解答」・「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら雨月物語『浅茅が宿』(4)問題1
さてしも臥したる妻はいづち行きけん①見えず。狐などのしわざにやと思へば、かく荒れ果てぬれど、②もと住みし家に違はで、広く造りなせ③し奥わたりより、端の方、稲倉まで好みたるままのさまなり。
④あきれて足の踏所さへ忘れたるやうなりしが、つらつら思ふに、「妻は既に⑤死りて、今は狐狸⑥の住み替はりて、かく野らなる宿と⑦なりたれば、怪しき鬼⑧の化してありし形を⑨見せつるにて⑩ぞあるべき。もしまた我を慕ふ魂のかへり⑪来りてかたりぬるものか。思ひし事の⑫つゆ違はざりしよ」と、⑬さらに涙さへ出でず。
我が身ひとつはもとの身にしてと歩み廻るに、むかし閨房にてありし所の簀子をはらひ、土を積みて塚と⑭し、雨露を防ぐ設けもあり。夜の霊はここもとよりやと恐ろしくもかつ⑮懐かし。水向けの具、物せ⑯し中に、木の端を削りたるに、那須野紙⑰のいたう古びて、文字もむら消えして所々⑱見定めがたき、正しく妻⑲の筆の跡なり。法名といふものも年月も記さで、⑳三十一字に末期の心を哀れにものべたり。
㉑さりともと 思ふ心に 謀られて 世にも今日まで 生ける命か
ここに初めて妻の㉒死したるを覚りて、大いに叫びて倒れ伏す。「さりとて何の年何の月日に終はり㉓しさへ知ら㉔ぬ㉕あさましさよ。㉖人は知りもやせん」と、涙をとどめて㉗立ち出づれば、日㉘高くさし昇り㉙ぬ。
問題1.①見え、⑤死り、⑦なり、⑨見せ、⑪来り、⑮懐かし、⑱見定めがたき、㉗立ち出づれ、㉘高く、の活用の種類と活用形を答えよ。
解答例:㊵カ行変格活用・已然形
①ヤ行下二段活用・未然形
※打消の助動詞「ず」の接続は未然形
⑤ラ行四段活用・連用形
※接続助詞「て」の前は連用形
⑤死(まか)る
⑦ラ行四段活用・連用形
※完了・存続の助動詞「たり」の接続は連用形
⑨サ行下二段活用・連用形
※完了・強意の助動詞「つ」の接続は連用形
⑪ラ行四段活用・連用形
※接続助詞「て」の前は連用形
⑮シク活用・終止形
※⑮、⑱、㉘、は形容詞
⑱ク活用・連体形
㉗ダ行下二段活用・已然形
※接続助詞「ば」の直前は未然形か已然形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
㉘ク活用・連用形
※直後に用言が来るときは連用形(用言に連なる形)となる。
問題2.「㉕あさましさ」のここでの意味を答えよ。
㉕あきれるほど情けないこと
問題3.⑥、⑧、⑰、⑲、の格助詞「の」の用法として適切なものを、次の記号「ア~ウ」の中から一つ選んで答えよ。
ア.連体修飾格 イ.主格 ウ.同格
⑥イ.主格
⑧イ.主格
⑰ウ.同格
⑲ア.連体修飾格
※「の」の用法
◎連体修飾格
「体言+の+体言」→「~の~」
(例)「私の消しゴム」→「私の消しゴム」
◎主格
「体言+の+用言」
(例)「私の飼ひたる猫は」→「私が飼っている猫は」
◎同格
「体言+の+用言(連体形)」
(例)「花の小さく美しきが」→「花で小さくて美しいものが」
問題4.③、⑭、⑯、㉓、の「し」における文法的説明として適切な記号を、次の「ア~オ」の中から一つ選んで答えよ。
ア.サ行変格活用の動詞 イ.サ行四段活用の動詞 ウ.過去の助動詞「き」の連用形 エ.過去の助動詞「き」の連体形 オ.形容詞の一部
③エ.過去の助動詞「き」の連体形
⑭ア.サ行変格活用の動詞
⑯エ.過去の助動詞「き」の連体形
㉓エ.過去の助動詞「き」の連体形
問題5.㉔、㉙、の「ぬ」における文法的説明として適切な記号を、次の「ア~オ」の中から一つ選んで答えよ。
ア.完了の助動詞「ぬ」の終止形 イ.完了の助動詞「ぬ」の連体形 ウ.打消の助動詞「ず」の終止形 エ.打消の助動詞「ず」の連体形 オ.動詞の一部
㉔エ.打消の助動詞「ず」の連体形
㉙ア.完了の助動詞「ぬ」の終止形
※打消の助動詞「ず」の接続は未然形。終止形は「ず」のみ
完了の助動詞「ぬ」の接続は連用形。連体形は「ぬる」となる
問題6.「㉒死したる」を例にならって品詞分解し、説明せよ。
例:「い は/れ/ず。」
いは=動詞・四段・未然形
れ=助動詞・受身・未然形
ず=助動詞・打消・終止形
⑦品詞分解:「死 し/た る」
死し=動詞・サ変・連用形
たる=助動詞・完了・連体形
問題7.「②もと住みし家に違はで」、「④あきれて足の踏所さへ忘れたるやうなりしが」、「⑫つゆ違はざりしよ」、「⑬さらに涙さへ出でず」、「⑳三十一字に末期の心を哀れにものべたり」、「㉑さりともと 思ふ心に 謀られて」、「㉖人は知りもやせん」、の現代語訳を答えよ。
②以前住んでいた家に違いなく
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
で=打消の接続助詞、直前には未然形が来る。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
④途方に暮れて自分が立っている所までも忘れてしまうようだったが
さへ=副助詞、~までも
忘れ=ラ行下二動詞「忘る」の連用形
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
⑫少しも違わなかったよ
つゆ=「つゆ」の後に打消語(否定語)を伴って、「まったく~ない・少しも~ない」となる重要語。ここでは「ざり」が打消語
ざり=打消しの助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
よ=間投助詞、詠嘆・感動などを表す
⑬全く涙さえも出ない
さらに=下に打消し語を伴って、「まったく~ない、いっこうに~ない」。ここでは「ず」が打消語
出で=ダ行下二動詞「出(い)づ」の未然形
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
⑳三十一文字に最後の気持ちを哀れに詠んであった
哀れに=ナリ活用の形容動詞「哀れなり」の連用形、つらい、悲しい。不憫だ、気の毒だ
も=係助詞、訳す際に無視しても構わない。
のべ=バ行下二段動詞「述ぶ」の連用形
たり=完了の助動詞「たり」の終止形、接続は連用形
㉑(夫は約束の秋には戻ってこなかったが)それでもいつかは帰ってくるだろうと思う気持ちに欺かれて
さりとも=接続詞、「今は~だとしてもこれからは~だろうと」といった意味
謀ら=ラ行四段動詞「謀る」の未然形、だます、欺く
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
㉖誰か知っているのではないか
も=係助詞、訳す際に無視しても構わない。
や=疑問の係助詞、結びは連体形となる。係り結び
せ=サ変動詞「す」の未然形、する
ん(む)=推量の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。係助詞「や」を受けて連体形となっている。係り結び。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。あとは文脈判断。
問題8.「雨月物語」の作者を答えよ。
作者:上田秋成
※江戸時代の国学者