古今著聞集『衣のたて』問題1の解答

「青字=解答」「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら古今著聞集『衣のたて』問題1


伊予守源頼義の朝臣、貞任・宗任らを攻むる間、陸奥に十二年の春秋を送りけり。

鎮守府を発ちて、秋田の城に移りけるに、雪、はだれに降りて、 軍の男どもの鎧みな白妙になりにけり。

衣川の館、岸高く川ありければ、盾をいただきて甲に重ね、筏を組みて攻め戦ふに、貞任ら耐へずして、つひに城の後ろより逃れ落ちけるを、一男八幡太郎義家、衣川に追ひたて攻め伏せて、「きたなくも、後ろをば見するものかな。しばし引き返せ。もの言は。」と言はれたりければ、貞任見返りたりけるに、

衣のたては  ほころびにけり

言へりけり。貞任くつばみをやすらへしころを振り向けて、

年を経  糸の乱れの  苦しさに

と付けたりけり。そのとき義家、はげたる矢をさし外して帰りにけり。さばかりの戦ひの中に、やさしかりけることかな。


問題1.①陸奥、②白妙、の漢字の読みを答えよ。

みちのく
しろたえ(しろたへ)


問題2.⑤む、⑥ける、⑦けり、⑨し、の助動詞の文法的意味として、「ア~シ」の記号から適当なものを一つ選んで答えよ。
ア.使役  イ.尊敬  ウ.過去  エ.詠嘆  オ.完了  カ.打消  キ.推量  ク.意志  ケ.勧誘  コ.婉曲  サ.受身  シ.尊敬  

ク.意志
ウ.過去
エ.詠嘆
ウ.過去


問題3.③いただく、⑪やさし、のここでの意味を答えよ。

頭の上に乗せる・頭上にかかげる
優雅だ・風流だ


問題4.「⑧言へりけり」を例にならって品詞分解し、説明せよ。

例:「い は/れ/ず。」
いは=動詞・四段・未然形
れ=助動詞・受身・未然形
ず=助動詞・打消・終止形

⑧品詞分解:「言 へ/り/け り
言へ=動詞・四段・已然形
り=助動詞・完了・連用形
けり=助動詞・過去・終止形

※り=完了・存続の助動詞「り」の連用形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形


問題5.「④後ろをば見するものかな」、の現代語訳を答えよ。

後ろ姿を見せるものだよ
ば=強調の係助詞。意味は強調なので無視して訳す。

見する=サ行下二動詞「見す」の連体形、見せる

かな=詠嘆の終助詞


問題6.「衣のたては  ほころびにけり」について、例にならって、掛詞をあげて説明せよ。また、現代語訳せよ。

(例:「かれ」に「離れ」と「枯れ」が掛けられている。)

掛詞(1):「たて」に「縦」と「館」が掛けられている。
※縦糸の「縦」と衣川の「館」が掛けられている。

現代語訳:衣の縦糸がほころびるように、衣川の館も崩れてしまった。


問題.7「⑩そのとき義家、はげたる矢をさし外して帰りにけり」とあるが、このような行動をとった理由として最も適当なものを次のア~エの中から選んで答えよ。

ア.戦いの最中に和歌を詠めるほどの余裕がある貞任に驚き、かなわないと思ったため。
イ.自分の詠みかけた和歌に対し、即座に応じることができた貞任のたしなみの深さに感心したから。
ウ.自分の詠みかけた和歌よりも優れた返歌をしたため、その場に居るのがいたたまれなくなったから。
エ.和歌で詠まれている通り、貞任の衣服がぼろぼろでみすぼらしくなっているのを見て、同情したから。

※義家の詠みかけた和歌に対し、戦いの最中にも関わらず即座に応じることができた貞任の心の余裕とたしなみの深さに感心したから。


古今著聞集『衣のたて』 解説・品詞分解

古今著聞集『衣のたて』まとめ