十訓抄『大江山』問題(1)の解答

「青字=解答」「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら十訓抄『大江山』問題(1)


 和泉式部、保昌が妻にて、丹後に下りけるほどに、京に歌合ありけるに、

小式部内侍、歌詠みにとられて、歌を詠みけるに、定頼中納言たはぶれて、

小式部内侍、にありけるに、「丹後へ遣はしける人は参りたりや。いかに心もとなくおぼすらん。」と言ひて、

局の前を過ぎられけるを、御簾より半らばかり出でて、わづかに直衣の袖を控へ


大江山  いくのの道の  遠ければ  まだふみもみず  天の橋立


と詠みかけけり。思はずにあさましくて、「こはいかに、かかるやうやはある。」とばかり言ひて、

返歌にも及ばず、袖を引き放ちて逃げられけり。小式部、これより、歌詠みの世におぼえ出で来にけり。


問題1.③局、⑧御簾、⑩直衣、の漢字の読みを答えよ。

つぼね
みす
なほし(なおし)


問題2.②たはぶる、⑥心もとなし、⑬あさまし、⑯おぼえ、のここでの意味を答えよ。

ふざける・からかう
待ち遠しい、じれったい。
意外だと驚く、驚きあきれる
良い評判、世評


問題3.①あり、④遣はし、⑤参り、⑦過ぎ、⑨出で、⑪控へ、⑰出で来、の活用の種類と活用形を答えよ。

(例:流るる=ラ行四段活用、連体形)
あり=ラ行変格活用、連用形
遣はし=サ行四段活用、連用形
参り=ラ行四段活用、連用形
過ぎ=ガ行上二段活用、未然形
出で=ダ行下二段活用、連用形
控へ=ハ行下二段活用、連用形
出で来=カ行変格活用、連用形


問題4.次のア~ウの中で使われている「ず」において、他の二つとは異なる用法のものを一つ選びなさい。

ア.まだふみもみず
イ.思はずに
ウ.返歌にも及ばず
※ア・ウのずは打消の助動詞「ず」であるが、イの「ず」はナリ活用の形容動詞「思はずなり」の連用形「思はずに」の一部である。


問題5.「⑫大江山  いくのの道の  遠ければ  まだふみもみず  天の橋立」の歌について、例にならって、掛詞を2つあげて説明せよ。また、現代語訳せよ。

(例:「かれ」に「離れ」と「枯れ」が掛けられている。)

掛詞(1):「いく」に「行く」と(生野の)「生」が掛けられている。

掛詞(2):「ふみ」に「踏み」と「文」が掛けられている。

現代語訳:(母のいる丹後までの)大江山を越えて生野を通って行く道が遠いので、まだ(丹後の名所である)天の橋立に足を踏み入れていませんし、(母からの)文も見ておりません。


問題6.「⑭こはいかに、かかるやうやはある。」と発言した定頼の心情を説明せよ。

説明:定頼は小式部内侍がこれほどの秀歌をとっさに読むとは思っていなかったため驚いている。


問題7.「⑮返歌にも及ばず、袖を引き放ちて逃げられけり。」という行動を定頼がした理由を答えよ。

理由:小式部内侍が詠んだ秀歌に対してふさわしい返歌を思いつかず、その場に居るのがいたたまれなくなったから。


解説・品詞分解はこちら十訓抄『大江山』解説・品詞分解

十訓抄『大江山』まとめ