青＝現代語訳・下小文字＝返り点・上小文字＝送り仮名・解説＝赤字
塞翁が馬＝人生においては、吉凶や禍福を予測することができないということのたとえ。
近二キ塞上一ニ之人ニ、有二リ善レクスル術ヲ者一。馬無レクシテ故亡ゲテ而入レル胡ニ。人皆弔レス之ヲ。
塞上に近きの人に、術を善くする者有り。馬故（ゆゑ）無くして亡（に）げて胡（こ）に入る。人皆之を弔す。
砦の近くに住む老人で、占いの得意な人がいた。（ある時、）飼っていた馬が何の理由もなく胡（西北方の異民族の地）に逃げていった。（この件について）周りの人々はなぐさめ慰めに来た。
其ノ父曰ハク、「此レ何遽ゾ不レラン為レラ福ト乎ト。」
其の父（ほ）曰はく、 「此れ何遽（なん）ぞ福と為（な）らざらんや」と。
※父＝砦の近くに住む占いの得意な老人のこと 「何遽ゾ～ンヤ」＝「どうして～か。（いや、～ない。）」反語
その老人は、 「これがどうして福にならないだろうか。（いや、なるだろう。）」と言った。
居ルコト数月、其ノ馬将二ヰテ胡ノ駿馬一ヲ而帰ル。人皆賀レス之ヲ。
居ること数月、其の馬胡の駿馬（しゅんめ）を将（ひき）ゐて帰る。人皆之を賀す。
数ヶ月たつと、その馬が胡から駿馬を連れて帰ってきた。周りの人々は（この出来事を）祝った。
其ノ父曰ハク、「此レ何遽ゾ不レラン能レハ為レル禍ト乎ト。」
其の父曰はく、 「此れ何遽（なん）ぞ禍（わざわい）と為る能（あた）はざらんや」と。
その老人は 、「これがどうして禍（わざわい）とならないだろうか。（いや、なるだろう。）」と言った。
家富二ム良馬一ニ。其ノ子好レミ騎ヲ、墮チテ而折二ル其ノ髀一ヲ。人皆弔レス之ヲ。
家良馬に富む。其の子騎を好み、堕ちて其の髀（ひ）を折る。人皆之を弔（ちゅう）す。
老人の家に良馬が増えた。その老人の子供は乗馬を好み、落馬して股（もも）の骨を折ってしまった。周りの人々はなぐさめ慰めに来た。
其ノ父曰ハク、「此レ何遽ゾ不レラン為レラ福ト乎ト。」
其の父曰はく、「此れ何遽（なん）ぞ福と為らざらんや」と。
その老人は、 「これがどうして福にならないだろうか。（いや、なるだろう。）」と言った。
居ルコト一年、胡人大イニ入レル塞ニ。丁壮ナル者引レキテ弦ヲ而戦ヒ、近レキ塞ニ之人、死スル者十ニ九。
居ること一年、胡人大いに塞に入る。丁壮なる者、弦を引きて戦ひ、塞に近きの人、死する者十に九。
それから１年経って、胡が砦に攻めてきた。働き盛りの男達は弓矢を引いて戦い、砦の近くに住んでいた者は、１０人中９人が亡くなった。
此レ独リ以二テ跛之故一ヲ、父子相保テリ。
此れ独り跛（は）の故（ゆゑ）を以て、父子相保てり。
彼（その老人の息子）一人だけは、足が不自由と言う理由で、父子は互いに無事だった。
故ニ福之為レリ禍ト、禍之為レル福ト、化不レ可レカラ極ム、深不レル可レカラ測ル也
故に福の禍と為り、禍の福と為る、化極むべからず、深測るべからざるなり。
だから、福が禍（わざわい）となり、禍が福となる、（そのような）物事の変化の微妙さを見極めることはできず、物事の道理の奥深さは推し測ることができないのである。
