平家物語『能登殿の最期』(3)解説・品詞分解(平教経vs源義経in壇ノ浦)

「黒=原文」・「赤=解説」「青=現代語訳」
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ここに土佐国の住人、安芸郷(あきごう)を知行(ちぎょう)し ける安芸大領実康(さねやす)が子に、安芸太郎実光(さねみつ)とて、三十人が力持つ たる大力(だいじから)の剛の者あり。

ここに=接続詞、さてそこで、それで、それゆえ

知行し=サ変動詞「知行す」の連用形。土地を領有して支配する

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

持つ=タ行四段動詞「持つ」の連用形が音便化したもの

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

さてそこで、土佐の国の住人で、安芸郷を支配していた安芸の大領実康の子に、安芸の太郎実光といって、三十人分の力を持っている大力の剛の者がいた。


われにちつとも劣ら郎等(ろうどう)一人、おととの次郎も普通にはすぐれ たる したたか者 なり

ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

すぐれ=ラ行下二段動詞「勝る(すぐる)」の連用形、他よりまさる、すぐれる

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

したたか者=名詞、剛の者、気丈な者

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

(実光は)自分より少しも劣らない家来一人(を従えており)、弟の次郎も並みよりはすぐれている剛の者であった。


安芸太郎、能登殿を見たてまつ申し けるは、

たてまつ=ラ行四段動詞「たてまつる」の連用形が音便化したもの、謙譲語、補助動詞。動作の対象(見られる人)である能登殿を敬っている。

申し=サ行四段動詞「申す」の連用形。「言ふ」の謙譲語。おそらく能登殿を敬っている。

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

安芸の太郎が能登殿を見申して申し上げたことには、


「いかに猛(たけ)うましますとも、われら三人取りついたら に、たとひたけ十丈の鬼なりとも、などか従へざる べき」とて、

まします=サ行四段動詞「まします」の終止形。「あり」の尊敬語。いらっしゃる、おいでになる

たら=完了の助動詞「たり」の未然形、接続は連用形

ん=仮定の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があり、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。あとは文脈判断であるが、直後にあるのが体言でなければほぼ婉曲で間違いない。

たけ=名詞、背丈、身長

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

などか=副詞、疑問・反語、どうして…か。(いや、ない。)ここでは反語として使われている。

ざる=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

べき=意志の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「などか」を受けて係り結び。

「どんなに勇猛でいらっしゃるとしても、我ら三人が取り組んだなら、たとえ背丈が十丈の鬼であっても、どうして組み伏せずにおこうか。(いや、組み伏せる。)」と言って、


主従三人小舟に乗つて、能登殿の船に押し並べ、「えい」と言ひて乗り移り、甲のしころを傾(かたぶ)け、太刀を抜いて、一面に打つてかかる。

主従三人(実光・次郎・家来)が小舟に乗って、能登殿の船に押し並べ、「えい。」と言って乗り移り、甲のしころを傾けて、太刀を抜いて、三人並んでいっせいにかかった。



能登殿のちつとも騒ぎたまは 、まつ先に進んだる安芸太郎が郎等を、裾(すそ)を合はせて、海へどうど蹴入れたまふ

たまは=補助動詞ハ行四段の未然形。尊敬語。動作の主体である能登殿を敬っている。

ず=打消の助動詞「ず」の連用形、接続は未然形

だる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

どうど=副詞、どんと、どすんと、どっと

たまふ=補助動詞ハ行四段の終止形。尊敬語。動作の主体である能登殿を敬っている。

能登殿は少しもあわてなさらず、まっ先に進んだ安芸の太郎の家来を、裾が合うほど近づいて、海へどすんと蹴り入れなさった。


続いて寄る安芸太郎を、弓手(ゆんで)の脇に取つてはさみ、弟の次郎をば馬手(めて)の脇にかいばさみ、ひと締め締めて、

弓手=左手(弓を持つ方の手)
馬手=右手(馬の手綱を握る方の手)

続いて寄ってくる安芸の太郎(実光)を、左手のわきに抱えて挟み、弟の次郎を右手のわきに挟み、一締め締めつけて、


いざ うれさらば おれら死出の山の供せよ」とて、生年二十六にて、海へつつと 入りたまふ

いざ=感嘆詞、さあ、さて

うれ=代名詞、きさま、おまえら

さらば=接続詞、それならば、それでは

おれら=代名詞、おまえら、おまえたち、われら

死出の山=冥土にあるという険しい山

つつと=副詞、勢いよく、さっと、ぱっと

ぞ=強調の助動詞、結びは連体形となる

たまふ=補助動詞ハ行四段の連体形、尊敬語。動作の主体である能登殿を敬っている。

「さあ、きさまら、それではおまえたち、死出の山への供をせよ。」と言って、年齢二十六歳で、海へさっと入りなさった。

平家物語『能登殿の最期』まとめ