平家物語『能登殿の最期』(2)現代語訳(平教経vs源義経in壇ノ浦)

「黒=原文」・「青=現代語訳」
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判官も先に心得て、表に立つやうにはしけれども、とかく違ひて、能登殿には組まれず。

判官(源義経)も前もって気づいていて、(能登殿の)正面に立つようにはしていたが、何かと行き違うようにして、組みなさらなかった。


されどもいかがしたりけん、判官の船に乗り当たつて、「あはや」と目をかけて飛んでかかるに、

けれども、どうしたのだろうか(能登殿が)判官の船に乗りあたって、「それっ。」と判官をめがけて飛びかかると、


判官かなはじとや思はれけん、長刀(なぎなた)脇(わき)にかいばさみ、味方の船の二丈ばかり退(の)いたりけるに、ゆらりと飛び乗りたまひぬ。

判官は、これはかなうまいとお思いになったのだろうか、長刀を脇にはさみ、味方の船で二丈ほども離れていた船に、ひらりと飛び乗りなさった。


能登殿は、早業(はやわざ)や劣られたりけん、やがて続いても飛びたまはず。

能登殿は、早業は劣っていらっしゃったのだろうか、すぐに続いて飛び移りなさらない。


今はかうと思はれければ、太刀・長刀海へ投げ入れ、甲(かぶと)も脱いで捨てられけり。

(能登殿は)今はこれまでとお思いになったので、太刀・長刀を海へ投げ入れ、甲も脱いでお捨てになった。



鎧の草摺(くさずり)かなぐり捨て、胴ばかり着て、大童(おほわらは)になり、大手を広げて立たれたり。

鎧の垂れも引きちぎって捨て、鎧の胴だけを着て、乱髪姿になり、大手を広げて立ちなさった。


およそあたりを払つてぞ見えたりける。恐ろしなんどもおろかなり。

おおかた誰をも近くに寄せ付けない(ほど威勢がある)様子に見えた。恐ろしいなどと(いう言葉)ではとても言い尽くせない。


能登殿、大音声をあげて、「われと思はん者どもは、寄つて教経に組んでいけどりにせよ。

能登殿は、大声をあげて、「我こそはと思う者どもがあったら、近寄ってこの教経(能登殿のこと)に組んで生け捕りにせよ。


鎌倉へ下つて、頼朝に会うて、もの一言言はんと思ふぞ。寄れや、寄れ。」とのたまへども、寄る者一人もなかりけり。

鎌倉へ下って、頼朝に会って、一言言おうと思う。寄れ、寄れ。」とおっしゃったけれども、近寄る者は一人もいなかった。

平家物語『能登殿の最期』(2)解説・品詞分解

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平家物語『能登殿の最期』まとめ