「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら枕草子『はしたなきもの』現代語訳
はしたなきもの。異人(ことびと)を呼ぶに「我ぞ」とてさし出で たる。物など取らする 折はいとど。
はしたなし=形容詞ク活用、体裁が悪い、間が悪い、みっともない、中途半端だ
異人(ことびと)=名詞、他の人、別の人
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形であるが、省略されている。係り結びの省略。おそらく「我ぞ呼びたる」が本来の形だと思われる。「私を呼んでいる。」
さし出づ=ダ行下二、出しゃばる、外に出る
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。文末なのに終止形ではなく連体形なのは、直後に「時・場合」である体言が省略されているから。「出しゃばった場合」
取らす=サ行下二、与える、やる
折=名詞、時、場合、機会、季節
いとど=副詞、いっそう、ますます、そのうえさらに。ここでは直後に「はしたなし」が省略されている
体裁の悪いもの。他の人を呼んでいるのに、「自分を呼んでいる。」と思って出しゃばった場合。物などをくれる場合はいっそう(体裁が悪い)。
おのづから 人の上などうち言ひ、そしり たるに、
おのづから=副詞、偶然、たまたま、自然と
人の上=特定の人物に関すること
うち言ふ=ハ行四段、ちょっと口に出す、何気なく言う
そしる=ラ行四段、人のことを悪く言う、非難する
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
たまたま、人の事をちょっと口に出し、悪く言ったときに、
幼き子ども の 聞き取りて、その人のあるに言ひ出でたる。
子ども=名詞、子供たち。古文においては「子供」というと複数子供がいるということである。
の=格助詞、主格。「幼い子供たちが聞き覚えて」「その当人がいるとき」
聞き取る=ラ行四段、聞いて心にとめる、聞いて覚える
たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形。連体形なのは直後に「時・場合」が省略されているから。
幼い子供たちが聞き覚えて、その当人がいるときに言い出した場合。
あはれなる事など人の言ひ出で、うち泣きなどするに、げにいとあはれなりなど聞きながら、
あはれなり=形容動詞ナリ活用、しみじみと心を動かされる、悲しい
げに(実に)=副詞、実に、まことに、本当に
ながら=接続助詞、次の②か③のどちらかの意味と考えられる
①そのままの状態「~のままで」例:「昔ながら」昔のままで
②並行「~しながら・~しつつ」例:「歩きながら」
③逆接「~でも・~けれども」 例:「敵ながら素晴らしい」
④そのまま全部「~中・~全部」例:「一年ながら」一年中
悲しい話などを人が話し出して、泣きなどする時に、本当にたいそう悲しいなどと思い聞くが、
涙の つと出で来 ぬ、いとはしたなし。
の=格助詞、主格
つと=副詞、急に、さっと、じっと、そのままずっと
来=カ変、ここでは未然形なので「来(こ)」と読む。直後に接続が未然形である助動詞「ず」の連体形「ぬ」が来ているので未然形だと判断する。
ぬ=打消しの助動詞「ず」の連体形、接続は未然形。直後に「時・場合」などが省略されているから「連体形」になるだろうと考えて活用から判断する。完了の助動詞「ぬ」の終止形と紛らわしいので注意。
涙が急に出て来ないのは、たいそう間が悪い(あるいは、きまりが悪い)。
泣き顔つくり、気色 ことに なせ ど、いとかひなし。
けしき(気色)=名詞、ようす、面もち
ことなり(異なり)=形容動詞ナリ活用、他とは違っている、相違しているさま。「けしきことになす」を直訳すると「様子を別な様子にする」であるが、文脈にあわせて「悲しい様子にする」などと訳す。
なす(為す)=サ行四段、する、こしらえる、行う
ど=接続助詞、逆接、接続は已然形
かひなし=形容詞ク活用、効果がない、無駄だ
泣き顔をし、悲しい様子にするが、全く無駄である。
めでたき事を見聞くには、まづ ただ出で来(き)に ぞ 出で来る。
めでたし=形容詞ク活用、魅力的だ、心惹かれる、すばらしい
まづ(先づ)=はじめに、先に、ともかく、実に
ただ=副詞、直に、すぐに
に=格助詞、強調、例:「泣きに泣き」…とにかく泣き、とめどなく泣き。接続(直前に来る用言)は連用形となる、なので「来(き)」と読んでいる。
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形。係り結び。
出で来る=カ変、係助詞「ぞ」の結びの部分であるため「連体形」となっており「いでくる」と読むので注意
(そのくせ)すばらしいことを見聞きする場合には、真っ先に涙がとめどなく出てくる。