「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
物=名詞
も=係助詞
見=マ行上一段動詞「見る」の未然形
で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
帰ら=ラ行四段動詞「帰る」の未然形
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
と=格助詞
し=サ変動詞「す」の連用形、する。
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく
通り出で=ダ行下二段動詞「通り出づ」の未然形
む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。
訳:「通り抜け出る(ような)隙間」
ひま(隙・暇)=名詞、すきま、油断。物と物との間。余暇。
も=係助詞
なき=ク活用の形容詞「無し」の連体形
に=格助詞
物も見で帰らむとし給へど、通り出でむ隙もなきに、
(六条の御息所は)見物もやめて帰ろうとなさるけれど、通り抜け出る隙間もないうちに、
事=名詞
なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
と=格助詞
言へ=ハ行四段動詞「言ふ」の已然形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
さすがに=副詞
つらき=ク活用の形容詞「辛し(つらし)」の連体形、薄情だ、思いやりがない。耐えがたい、心苦しい
人=名詞
の=格助詞
御前渡り=名詞
の=格助詞
待た=タ行四段動詞「待つ」の未然形
るる=自発の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
も=係助詞
心弱し=ク活用の形容詞「心弱し」の終止形
や=間投助詞、詠嘆
「事なりぬ。」と言へば、さすがにつらき人の御前渡りの待たるるも心弱しや。
「行列が来た。」と言うので、さすがに、薄情な人のお通りが自然に待たれるのも(我ながら)意志の弱いことだよ。
笹=名詞
の=格助詞
隈(くま)=名詞
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
だに=副助詞、類推(~さえ・~のようなものでさえ)。強調(せめて~だけでも)。添加(~までも)
あら=ラ変動詞「あり」の未然形
ね=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
や=疑問の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「あらむ」が省略されていると考えられる。
※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。
「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」など
「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」など
「笹の隈」にだにあらねばにや、
(この場所が、歌に詠まれた)「笹の隈」でさえもないからだろうか、
※「笹の隈」=「笹の隈(くま) 檜隈川(ひのくまがわ)に 駒(こま)止めて しばし水かへ その間にも見む」
笹の生い茂っている奥深いところを流れる檜隈川で、馬を止めて少しの間水を飲ませてあげてください。馬に水を飲ませているその少しの間だけでも、私はあなたの姿だけでも見ていたいと思いますので
つれなく=ク活用の形容詞「つれなし」の連用形、冷ややかだ、関心を示さない。平然としている、素知らぬ顔だ。「連れ無し」ということで、関連・関係がない様子ということに由来する。
過ぎ=ガ行上二段動詞「過ぐ」の連用形
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。
に=格助詞
つけ=カ行下二段動詞「つく」の連用形
て=接続助詞
も=係助詞
なかなか(中中)=副詞、かえって、むしろ
御心づくし=名詞、いろいろと物思いすること、気をもむこと
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
つれなく過ぎ給ふにつけても、なかなか御心づくしなり。
(光源氏が)そっけなく通り過ぎなさるのにつけても、(そんな源氏のお姿を見てしまっただけに)かえって物思いを尽くしてしまうことである。
げに(実に)=副詞、なるほど、実に、まことに。本当に
常=名詞
より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや
も=係助詞
好み=マ行四段動詞「好む」の連用形
ととのへ=ハ行下二段動詞「ととのふ」の連用形
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
車ども=名詞
の=格助詞
我=名詞
も=係助詞
我=名詞
も=係助詞
と=格助詞
乗りこぼれ=ラ行下二段動詞「乗りこぼる」の連用形
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
下簾(しもすだれ)=名詞
の=格助詞
隙間ども=名詞
も=係助詞
げに、常よりも好みととのへたる車どもの、我も我もと乗りこぼれたる下簾の隙間どもも、
なるほど、いつもより趣向を凝らして用意した何台もの車の、我も我もとこぼれそうに乗っている下簾の隙間に対しても、
さらぬ顔なれ=ナリ活用の形容動詞「然らぬ顔なり」の已然形、何気ない顔、さりげない様子
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく
ほほ笑み=マ行四段動詞「ほほ笑む」の連用形
つつ=接続助詞
後目(しりめ)=名詞、横目、流し目
に=格助詞
とどめ=マ行下二段動詞「止む・留む(とどむ)」の連用形
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。
も=係助詞
あり=ラ変動詞「あり」の終止形
さらぬ顔なれど、ほほ笑みつつ後目にとどめ給ふもあり。
(光源氏は)気にもとめない顔であるが、ほほ笑みながら流し目でご覧になる人物もいる。
大殿=名詞
の=格助詞
は=係助詞
しるけれ=ク活用の形容詞「しるし」の已然形、きわだっている、はっきりしている、明白である。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。
まめだち=タ行四段動詞「忠実立つ(まめだつ)」の連用形、真面目にふるまう、本気になる
て=接続助詞
渡り=ラ行四段動詞「渡る」の連用形
給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の終止形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。
大殿のは、しるければ、まめだちて渡り給ふ。
大殿(の姫君である葵の上)の車は、はっきりと分かるので、(光源氏は葵の上の車の近くになると)真面目な顔つきでお通りになる。
御供=名詞
の=格助詞
人々=名詞
うちかしこまり=ラ行四段動詞「うちかしこまる」の連用形
心ばへ=名詞、心の様子、心づかい。趣向、趣。趣意、意味
あり=ラ変動詞「あり」の連用形
つつ=接続助詞
渡る=ラ行四段動詞「渡る」の連体形
を=接続助詞
おし消た=タ行四段動詞「おし消つ」の未然形、圧倒する、威圧する
れ=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
ありさま=名詞
こよなう=ク活用の形容詞「こよなし」の連用形が音便化したもの、(優劣にかかわらず)違いがはなはだしいこと、この上なく
思さ=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の未然形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。
る=自発の助動詞「る」の終止形、接続は未然形。「る」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。自発:「~せずにはいられない、自然と~される」
御供の人びとうちかしこまり、心ばへありつつ渡るを、おし消たれたるありさま、こよなう思さる。
お供の人々も(葵の上の車の前は)敬意を払いつつで通るので、(六条の御息所は自身が葵の上に)圧倒されているありさまを、この上なく(みじめに)思いなさる。
影(かげ)=名詞、姿、形。鏡や水などに移る姿、映像
を=格助詞
のみ=副助詞
御手洗川(みたらしがわ)=名詞
の=格助詞
つれなき=ク活用の形容詞「つれなし」の連体形、冷ややかだ、関心を示さない。平然としている、素知らぬ顔だ。「連れ無し」ということで、関連・関係がない様子ということに由来する。
に=接続助詞
身=名詞
の=格助詞
うき=ク活用の形容詞「憂し(うし)」の連体形、いやだ、にくい、気に食わない、つらい
ほど=名詞
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。
いとど=副詞、いよいよ、ますます。その上さらに
知ら=ラ行四段動詞「知る」の未然形
るる=自発の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。
※掛詞=同音異義を利用して、一つの語に二つ以上の意味を持たせたもの。
掛詞を探すときのポイント(いずれも例外有り)
①ひらがなの部分
②和歌に至るまでの経緯で出て来た単語
③地名などの固有名詞
「御手洗川」が掛詞となっており、「見たらし」と掛けられている。※他説有り
「うき」が掛詞となっており、「憂き」と「浮き」が掛けられている。
※縁語…ある言葉と意味上の縁のある言葉。ある言葉から連想できる言葉が縁語。
例:「舟」の縁語は「漕ぐ」「沖」「海」「釣」など
この和歌では、「川」の縁語として「影・浮き」が用いられている。
影をのみ 御手洗川の つれなきに 身のうきほどぞ いとど知らるる
今日の御禊の日に、わずかばかり影を映して流れ去る御手洗川のように、少しだけあなたのことを私の目に映しましたが、あなたのそっけなさに我が身の不幸がどれほどか、いよいよ認識せずにはいられません。
と=格助詞
涙=名詞
の=格助詞
こぼるる=ラ行下二段動詞「こぼる」の連体形
を=格助詞
人=名詞
の=格助詞
見る=マ行上一段動詞「見る」の連体形
も=係助詞
はしたなけれ=ク活用の形容詞「はしたなし」の已然形、体裁が悪い、みっともない。中途半端だ。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく
と、涙のこぼるるを、人の見るもはしたなけれど、
と(六条の御息所は)詠み、涙がこぼれるのを、人が見るのも体裁が悪いけれど、
目=名詞
も=係助詞
あやなる=ナリ活用の形容動詞「あやなり」の連体形
目もあやなる=はなやかで正視できない、まぶしいほど立派なさま
御さま=名詞
容貌=名詞
の=格助詞
いとどしう=シク活用の形容詞「いとどし」の連用形が音便化したもの、ますます激しい、いよいよ甚だしい
出で栄え(いでばえ)=名詞
を=格助詞
見=マ行上一段動詞「見る」の未然形
ざら=打消の助動詞「ず」の未然形、接続は未然形
ましか=反実仮想の助動詞「まし」の未然形、接続は未然形。反実仮想とは事実に反する仮想である。
ば=接続助詞、直前が未然形だから④仮定条件「もし~ならば」の意味である。
「見ざらましかば(口惜しからまし)」=「もし見なかったら(どんなに心残りであっただろう)」という訳となり、「口惜しから(シク活用形容詞の未然形)/まし(反実仮想の助動詞の終止形)」が省略されている。
と=格助詞
思さ=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の未然形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。
る=自発の助動詞「る」の終止形、接続は未然形。「る」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。
目もあやなる御さま、容貌のいとどしう出でばえを見ざらましかばと思さる。
(普段でも)まぶしいほど立派な(光源氏の)ご様子や容貌がいっそう晴れの場で引き立つのを見なかったら(どんなに心残りであっただろう)とお思いにならずにはいられない。