源氏物語『車争ひ』品詞分解のみ(4)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 源氏物語『車争ひ』まとめ

 

=名詞

=係助詞

=マ行上一段動詞「見る」の未然形

=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。

帰ら=ラ行四段動詞「帰る」の未然形

=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。

=格助詞

=サ変動詞「す」の連用形、する。

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。

=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく

通り出で=ダ行下二段動詞「通り出づ」の未然形

=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。

訳:「通り抜け出る(ような)隙間」

ひま(隙・暇)=名詞、すきま、油断。物と物との間。余暇。

=係助詞

なき=ク活用の形容詞「無し」の連体形

=格助詞

 

物も見で帰らむとし給へど、通り出でむ隙もなきに、

(六条の御息所は)見物もやめて帰ろうとなさるけれど、通り抜け出る隙間もないうちに、

 

 

=名詞

なり=ラ行四段動詞「成る」の連用形

=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

=格助詞

言へ=ハ行四段動詞「言ふ」の已然形

=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

さすがに=副詞

つらき=ク活用の形容詞「辛し(つらし)」の連体形、薄情だ、思いやりがない。耐えがたい、心苦しい

=名詞

=格助詞

御前渡り=名詞

=格助詞

待た=タ行四段動詞「待つ」の未然形

るる=自発の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

=係助詞

心弱し=ク活用の形容詞「心弱し」の終止形

=間投助詞、詠嘆

 

「事なりぬ。」と言へば、さすがにつらき人の御前渡りの待たるるも心弱しや。

「行列が来た。」と言うので、さすがに、薄情な人のお通りが自然に待たれるのも(我ながら)意志の弱いことだよ。

 

 

=名詞

=格助詞

(くま)=名詞

=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

だに=副助詞、類推(~さえ・~のようなものでさえ)。強調(せめて~だけでも)。添加(~までも)

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

=打消の助動詞「ず」の已然形、接続は未然形

=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

=疑問の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。「あらむ」が省略されていると考えられる。

※今回のように係助詞の前に「に(断定の助動詞)」がついている時は「あり(ラ変動詞)」などが省略されている。場合によって敬語になったり、助動詞がついたりする。

「にや・にか」だと、「ある・侍る(「あり」の丁寧語)・あらむ・ありけむ」など

「にこそ」だと、「あれ・侍れ・あらめ・ありけめ」など

 

「笹の隈」にだにあらねばにや、

(この場所が、歌に詠まれた)「笹の隈」でさえもないからだろうか、

※「笹の隈」=「笹の隈(くま) 檜隈川(ひのくまがわ)に 駒(こま)止めて しばし水かへ その間にも見む」

笹の生い茂っている奥深いところを流れる檜隈川で、馬を止めて少しの間水を飲ませてあげてください。馬に水を飲ませているその少しの間だけでも、私はあなたの姿だけでも見ていたいと思いますので

 

 

つれなく=ク活用の形容詞「つれなし」の連用形、冷ややかだ、関心を示さない。平然としている、素知らぬ顔だ。「連れ無し」ということで、関連・関係がない様子ということに由来する。

過ぎ=ガ行上二段動詞「過ぐ」の連用形

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。

=格助詞

つけ=カ行下二段動詞「つく」の連用形

=接続助詞

=係助詞

なかなか(中中)=副詞、かえって、むしろ

御心づくし=名詞、いろいろと物思いすること、気をもむこと

なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形

 

つれなく過ぎ給ふにつけても、なかなか御心づくしなり。

(光源氏が)そっけなく通り過ぎなさるのにつけても、(そんな源氏のお姿を見てしまっただけに)かえって物思いを尽くしてしまうことである。

 

 

げに(実に)=副詞、なるほど、実に、まことに。本当に

=名詞

より=格助詞、(起点)~から、(手段・用法)~で、(経過点)~を通って、(即時:直前に連体形がきて)~するやいなや

=係助詞

好み=マ行四段動詞「好む」の連用形

ととのへ=ハ行下二段動詞「ととのふ」の連用形

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

車ども=名詞

=格助詞

=名詞

=係助詞

=名詞

=係助詞

=格助詞

乗りこぼれ=ラ行下二段動詞「乗りこぼる」の連用形

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

下簾(しもすだれ)=名詞

=格助詞

隙間ども=名詞

=係助詞

 

げに、常よりも好みととのへたる車どもの、我も我もと乗りこぼれたる(しも)(すだれ)の隙間どもも、

なるほど、いつもより趣向を凝らして用意した何台もの車の、我も我もとこぼれそうに乗っている下簾の隙間に対しても、

 

 

さらぬ顔なれ=ナリ活用の形容動詞「然らぬ顔なり」の已然形、何気ない顔、さりげない様子

=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく

ほほ笑み=マ行四段動詞「ほほ笑む」の連用形

つつ=接続助詞

後目(しりめ)=名詞、横目、流し目

=格助詞

とどめ=マ行下二段動詞「止む・留む(とどむ)」の連用形

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連体形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。

=係助詞

あり=ラ変動詞「あり」の終止形

 

さらぬ顔なれど、ほほ笑みつつ(しり)()にとどめ給ふもあり。

(光源氏は)気にもとめない顔であるが、ほほ笑みながら流し目でご覧になる人物もいる。

 

 

大殿=名詞

=格助詞

=係助詞

しるけれ=ク活用の形容詞「しるし」の已然形、きわだっている、はっきりしている、明白である。

=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

まめだち=タ行四段動詞「忠実立つ(まめだつ)」の連用形、真面目にふるまう、本気になる

=接続助詞

渡り=ラ行四段動詞「渡る」の連用形

給ふ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の終止形、尊敬語。動作の主体である光源氏を敬っている。

 

大殿のは、しるければ、まめだちて渡り給ふ。

大殿(の姫君である葵の上)の車は、はっきりと分かるので、(光源氏は葵の上の車の近くになると)真面目な顔つきでお通りになる。

 

 

御供=名詞

=格助詞

人々=名詞

うちかしこまり=ラ行四段動詞「うちかしこまる」の連用形

心ばへ=名詞、心の様子、心づかい。趣向、趣。趣意、意味

あり=ラ変動詞「あり」の連用形

つつ=接続助詞

渡る=ラ行四段動詞「渡る」の連体形

=接続助詞

おし消た=タ行四段動詞「おし消つ」の未然形、圧倒する、威圧する

=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

ありさま=名詞

こよなう=ク活用の形容詞「こよなし」の連用形が音便化したもの、(優劣にかかわらず)違いがはなはだしいこと、この上なく

思さ=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の未然形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。

=自発の助動詞「る」の終止形、接続は未然形。「る」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。自発:「~せずにはいられない、自然と~される」

 

御供の人びとうちかしこまり、心ばへありつつ渡るを、おし消たれたるありさま、こよなう思さる。

お供の人々も(葵の上の車の前は)敬意を払いつつで通るので、(六条の御息所は自身が葵の上に)圧倒されているありさまを、この上なく(みじめに)思いなさる。

 

 

(かげ)=名詞、姿、形。鏡や水などに移る姿、映像

=格助詞

のみ=副助詞

御手洗川(みたらしがわ)=名詞

=格助詞

つれなき=ク活用の形容詞「つれなし」の連体形、冷ややかだ、関心を示さない。平然としている、素知らぬ顔だ。「連れ無し」ということで、関連・関係がない様子ということに由来する。

=接続助詞

=名詞

=格助詞

うき=ク活用の形容詞「憂し(うし)」の連体形、いやだ、にくい、気に食わない、つらい

ほど=名詞

=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び。

いとど=副詞、いよいよ、ますます。その上さらに

知ら=ラ行四段動詞「知る」の未然形

るる=自発の助動詞「る」の連体形、接続は未然形。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

 

※掛詞=同音異義を利用して、一つの語に二つ以上の意味を持たせたもの。

掛詞を探すときのポイント(いずれも例外有り)

①ひらがなの部分

②和歌に至るまでの経緯で出て来た単語

③地名などの固有名詞

 

「御手洗川」が掛詞となっており、「見たらし」と掛けられている。※他説有り

「うき」が掛詞となっており、「憂き」と「浮き」が掛けられている。

 

※縁語…ある言葉と意味上の縁のある言葉。ある言葉から連想できる言葉が縁語。

例:「舟」の縁語は「漕ぐ」「沖」「海」「釣」など

 

この和歌では、「川」の縁語として「影・浮き」が用いられている。

 

影をのみ  御手洗川(みたらしがわ)の  つれなきに  身のうきほどぞ  いとど知らるる

今日の御禊の日に、わずかばかり影を映して流れ去る御手洗川のように、少しだけあなたのことを私の目に映しましたが、あなたのそっけなさに我が身の不幸がどれほどか、いよいよ認識せずにはいられません。

 

 

=格助詞

=名詞

=格助詞

こぼるる=ラ行下二段動詞「こぼる」の連体形

=格助詞

=名詞

=格助詞

見る=マ行上一段動詞「見る」の連体形

=係助詞

はしたなけれ=ク活用の形容詞「はしたなし」の已然形、体裁が悪い、みっともない。中途半端だ。

=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく

 

と、涙のこぼるるを、人の見るもはしたなけれど、

と(六条の御息所は)詠み、涙がこぼれるのを、人が見るのも体裁が悪いけれど、

 

 

=名詞

=係助詞

あやなる=ナリ活用の形容動詞「あやなり」の連体形

目もあやなる=はなやかで正視できない、まぶしいほど立派なさま

御さま=名詞

容貌=名詞

=格助詞

いとどしう=シク活用の形容詞「いとどし」の連用形が音便化したもの、ますます激しい、いよいよ甚だしい

出で栄え(いでばえ)=名詞

=格助詞

=マ行上一段動詞「見る」の未然形

ざら=打消の助動詞「ず」の未然形、接続は未然形

ましか=反実仮想の助動詞「まし」の未然形、接続は未然形。反実仮想とは事実に反する仮想である。

=接続助詞、直前が未然形だから④仮定条件「もし~ならば」の意味である。

「見ざらましかば(口惜しからまし)」=「もし見なかったら(どんなに心残りであっただろう)」という訳となり、「口惜しから(シク活用形容詞の未然形)/まし(反実仮想の助動詞の終止形)」が省略されている。

=格助詞

思さ=サ行四段動詞「思す(おぼす)」の未然形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。

=自発の助動詞「る」の終止形、接続は未然形。「る」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があり、「自発」の意味になるときはたいてい直前に「心情動詞(思う、笑う、嘆くなど)・知覚動詞(見る・知るなど)」があるので、それが識別のポイントである。

 

目もあやなる御さま、容貌のいとどしう出でばえを見ざらましかばと思さる。

(普段でも)まぶしいほど立派な(光源氏の)ご様子や容貌がいっそう晴れの場で引き立つのを見なかったら(どんなに心残りであっただろう)とお思いにならずにはいられない。

 

 

 源氏物語『車争ひ』まとめ

 

 

 

源氏物語『車争ひ』品詞分解のみ(3)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 源氏物語『車争ひ』まとめ

 

【人物紹介】

本文における斎宮=六条の御息所の娘。梅壺女御。秋好(あきこのむ)中宮。御息所の死後、光源氏が後ろ盾となり冷泉帝のもとに入内し、梅壺女御となった後、正式に中宮となる。

冷泉帝=表向きは桐壷帝と藤壺の息子だが、実は光源氏と藤壺の子。

 

 

斎宮(さいぐう)=名詞。天皇の代ごとに選ばれ、伊勢神宮に奉仕する未婚の皇女(みこ)。当然、天皇の代が変わればその任を解かれることになる。

=格助詞

御母=名詞

御息所(みやすどころ)=名詞

もの思し乱るる=ラ行下二段動詞「もの思し乱る」の連体形、「思ひ乱る」の尊敬語。あれこれ考えて思い乱れる。動作の主体である六条の御息所を敬っている。

慰め=名詞

=格助詞

=係助詞

=疑問の係助詞、結びは連体形となるはずだが、ここでは省略されている。係り結びの省略。「せ(サ変動詞の未然形)/む(意志の助動詞の連体形)」が省略されている。

=格助詞

忍び=バ行上二段動詞「忍ぶ」の連用形

=接続助詞

出で=ダ行下二段動詞「出づ」の連用形

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である六条の御息所を敬っている。

=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

なり=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断

 

斎宮の御母御息所、もの思し乱るる慰めにもやと、忍びて出で給へるなりけり。

斎宮の御母の御息所(六条の御息所のこと)が、あれこれと思い乱れてお気持ちの慰めにでもしようかと、人目を避けてお出かけになっているのであったのだ。

 

 

つれなしづくれ=ラ行四段動詞「つれなしづくる」の已然形、平気なふりをする、そしらぬふりをする

つれなし=ク活用の形容詞、平然としている、素知らぬ顔だ。冷ややかだ、冷淡だ。「連れ無し」ということで、関連・関係がない様子ということに由来する。

=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく

おのづから=副詞

見知り=ラ行四段動詞「見知る」の連用形

=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

 

つれなしづくれど、おのづから見知りぬ。

何気ないふりを装っているが、(葵の上は乗り主が御息所だと)自然と気づいた。

 

 

さばかり=副詞、それほど、そのくらい。それほどまでに。「さ」と「ばかり」がくっついたもの。「さ」は副詞で、「そう、そのように」などの意味がある。

=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

=接続助詞

=係助詞

=副詞、そう、その通りに、そのように

=副詞

「な~そ」で「~するな(禁止)」を表す。

言は=ハ行四段動詞「言ふ」の未然形

=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。

=終助詞

 

「さばかりにては、さな言はせそ。」

「それくらい(の身分)では、そのよう口はたたかせるな。」

※六条の御息所は、亡き東宮(皇太子)の妃であった上に、大臣の娘でもあり身分は高かったが、このようなことを葵の上方の供人に言われてしまった。

 

 

大将殿=名詞

=格助詞

=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び

豪家=名詞、頼みにする権威、よりどころ。格式高い家、権勢のある家

=格助詞

=係助詞

思ひ=ハ行四段動詞「思ふ」の連用形

聞こゆ=補助動詞ヤ行下二「聞こゆ」の終止形、謙譲語。動作の対象である大将殿(光源氏)を敬っている。

らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。係助詞「ぞ」を受けて連体形となっている。係り結び。

など=副助詞

言ふ=ハ行四段動詞「言ふ」の連体形

=格助詞

 

「大将殿をぞ、豪家には思ひ聞こゆらむ。」など言ふを、

「大将殿(光源氏)を権威として頼みに思い申し上げてるのだろう。」などと(葵の上方の供人が)言うのを

 

 

=代名詞

=格助詞

御方=名詞

=格助詞

=名詞

=係助詞

混じれ=ラ行四段動詞「混じる・交じる(まじる)」の已然形

=存続の助動詞「り」の已然形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

いとほし=シク活用の形容詞「いとほし」の終止形、かわいそうだ、気の毒だ。困る、いやだ。かわいい、いとしい

=格助詞

=マ行上一段動詞「見る」の連用形

ながら=接続助詞

 

その御方の人も混じれれば、いとほしと見ながら、

(葵の上方の供人の中には)その御方(光源氏)に普段仕えている者も交じっているので、(葵の上は六条の御息所の事を)気の毒にと思いながらも、

 

 

用意せ=サ変動詞「用意す」の未然形、心づかいをする、注意・用心する。前もって準備する。「名詞+す(サ変動詞)」で一つのサ変動詞になるものがいくらかある。例:「心す」、「愛す」、「ご覧ず」

=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。直後に「こと」などが省略されているため連体形となっている。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後に体言があると婉曲になりがち。

訳:「気を使う(ような)のも」

=係助詞

わづらはしけれ=シク活用の形容詞「わづらはし」の已然形、面倒なさま、いとわしい、いやだ

=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

知らず顔=名詞

=格助詞

つくる=ラ行四段動詞「つくる」の終止形

 

用意せむもわづらはしければ、知らず顔をつくる。

気を遣うのも面倒なので、知らない顔をしている。

 

 

つひに=副詞

御車ども=名詞

立て続け=カ行下二段動詞「立て続く」の連用形

つれ=完了の助動詞「つ」の已然形、接続は連用形

=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

副車(そえぐるま)=名詞、お供の人の車、随行者に貸し与えられた牛車。人給ひ(ひとだまひ)と同じ意味

=格助詞

=名詞

=格助詞

おしやら=ラ行四段動詞「押しやる」の未然形

=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る・らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

=接続の助動詞

=名詞

=係助詞

見え=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の未然形

=打消の助動詞「ず」の終止形

 

つひに、御車ども立て続けつれば、(そえ)(ぐるま)の奥におしやられて、物も見えず。

とうとう(葵の上の車が六条の御息所の車を押しのけて)御車の列を立て並べてしまったので、(葵の上の)お供の者が乗る車の後ろに押しやられて、(六条の御息所は)何も見えない。

 

 

心やましき=シク活用の形容詞「心疾し(こころやまし)」の連体形、思い通りにならず不満なさま、劣等感から不快を感じるさま

=格助詞

=係助詞

さる=ラ変動詞「然り(さり)」の連体形、そうだ、そうである。適切である、ふさわしい、しかるべきだ。

もの=名詞

然(さ)るもの=もっともなこと、当然なこと。そのようなもの。しかるべきもの

=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

=接続助詞

かかる=連体詞、あるいはラ変動詞「かかり」の連体形、このような、こういう

やつれ=名詞、人目を忍ぶ姿、目立たない姿になること。みすぼらしくなること

=格助詞

それ=代名詞

=格助詞

知ら=ラ行四段動詞「知る」の未然形

=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「る」には「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味があるがここは文脈判断。

ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形

=格助詞

いみじう=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形が音便化したもの、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても

ねたき=ク活用の形容詞「ねたし」の連体形、しゃくだ、忌々しい、腹立たしい

こと=名詞

限りなし=ク活用の形容詞「限りなし」の終止形

 

心やましきをばさるものにて、かかるやつれをそれと知られぬるが、いみじうねたきこと、限りなし。

腹立たしいのは当然として、このような人目を忍ぶ姿をはっきりと知られてしまったことが、ひどく腹立たしいこと、この上ない。

 

 

(かぢ)=名詞

など=副助詞

=係助詞

みな=副詞

押し折ら=ラ行四段動詞「押し折る」の未然形

=受身の助動詞「る」の連用形、接続は未然形

=接続助詞

すずろなる=ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連体形、意に反して、意に関係なく。むやみやたらである。何の関係もないさま

=名詞

=格助詞

=名詞

車の筒=轂(こしき)のこと。牛車の車輪の中央にある円木

=格助詞

うちかけ=カ行下二段動詞「うちかく」の連用形

たれ=存続の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形

=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。

 

(かぢ)などもみな押し折られて、すずろなる車の筒にうちかけたれば、

榻などもみな押し折られて、本来ある場所とは全く違う車の轂(こしき)に掛けているので、

 

 

またなう=ク活用の形容詞「またなし」の連用形が音便化したもの、またとない、二つとない

人わろく=ク活用の形容詞「人悪ろし」の連用形、外聞が悪い、みっともない、体裁が悪い

くやしう=シク活用の形容詞「悔し」の連用形が音便化したもの

=代名詞

=格助詞

(き)=カ変動詞「来(く)」の連用形

=強意の助動詞「つ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる

らむ=現在推量の助動詞「らむ」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。おそらく疑問の係助詞「か」が省略されていて係り結びが起こっている。

=格助詞

思ふ=ハ行四段動詞「思ふ」の連体形

=接続助詞

かひなし=ク活用の形容詞「甲斐なし(かひなし)」の終止形、どうしようもない、効果がない、むだだ

 

またなう人わろく、くやしう、何に来つらむと思ふにかひなし。

またとなく体裁が悪く、悔しく、何のために来てしまったのだろうと思うが、どうしようもない。

 

 

続きはこちら源氏物語『車争ひ』品詞分解のみ(4)

 

 源氏物語『車争ひ』まとめ

 

 

 

源氏物語『車争ひ』品詞分解のみ(2)

「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳

 源氏物語『車争ひ』まとめ

 

=名詞

たけゆき=カ行四段動詞「たけゆく」の連用形

=接続助詞

儀式=名詞

=係助詞

わざと=副詞、わざわざ、特に心を用いて。正式に、本格的に特に、特別に

なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形

=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形

さま=名詞

=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

=接続助詞

出で=ダ行下二段動詞「出づ」の連用形

給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である葵の上を敬っている。

=完了の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

 

日たけゆきて、儀式もわざとならぬさまにて出で給へり。

日が高くなって、お支度も特に改まったふうでない様子で(葵の上は)お出かけになった。

 

 

(ひま)=名詞、すきま、油断。物と物との間。余暇。

=係助詞

なう=ク活用の形容詞「無し」の連用形が音便化したもの

立ちわたり=ラ行四段動詞「立ちわたる」の連用形、立ち並んでいる

わたる=補助動詞ラ行四段、一面に~する、ずっと~し続ける

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

=接続助詞

よそほしう=シク活用の形容詞「装し(よそほし)」の連用形が音便化したもの、整って立派である、厳めしく美しい

引き続き=カ行四段動詞「引き続く」の連用形

=接続助詞

立ちわづらふ=ハ行四段動詞「立ちわづらふ」の終止形、車などを置くのに困る

 

隙もなう立ちわたりたるに、よそほしう引き続きて立ちわづらふ。

物見の車が隙間もなく立ち並んでいる所に、(葵の上たちは)立派に整って列をなしたまま車を止めるのに困っている。

 

 

よき=ク活用の形容詞「良し」の連体形

女房車=名詞

多く=ク活用の形容詞「多し」の連用形

=接続助詞

雑々の人=名詞

なき=ク活用の形容詞「無し」の連体形

(ひま)=名詞、すきま、油断。物と物との間。余暇。

=格助詞

思ひ定め=マ行下二段動詞「思ひ定む」の連用形

=接続助詞

=名詞

さし退け=カ行下二段動詞「さし退く」の未然形

さする=使役の助動詞「さす」の連体形、接続は未然形。「さす」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。

=名詞

=格助詞

 

よき女房車多くて、雑々の人なき隙を思ひ定めて、皆さし退けさするなかに、

身分の高い女性の車が多いので、(その中に)身分の低い者がいない場所を見つけて、(その辺の車を)みな立ち退かせる中に、

 

 

網代(あじろ)=名詞

=格助詞

すこし=副詞

なれ=ラ行下二段動詞「馴る(なる)」の連用形、(使い古して)なじむ、うちとける

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

=格助詞

下簾(しもすだれ)=名詞

=格助詞

さま=名詞

など=副助詞

よしばめ=マ行四段動詞「よしばむ」の已然形、由緒ありげな様子をしている、気取っている

=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形

=接続助詞

いたう=ク活用の形容詞「いたし」の連用形が音便化したもの、良い意味でも悪い意味でも程度がはなはだしい

引き入り=ラ行四段動詞「引き入る」の連用形

=接続助詞

 

網代(あじろ)のすこしなれたるが、(しも)(すだれ)のさまなどよしばめるに、いたう引き入りて、

網代車で少し使いならした車が、下簾の様子などが由緒ありげなうえに、(乗車している女性が)奥の方に乗っていて、

 

 

ほのかなる=ナリ活用の形容動詞「ほのかなり」の連体形

袖口=名詞

(も)=名詞

=格助詞

(すそ)=名詞

汗衫(かざみ)=名詞

など=副助詞

物の色=名詞

いと=副詞

きよらに=ナリ活用の形容動詞「清らなり」の連用形、美しい

=接続助詞

ことさらに=ナリ活用の形容動詞「殊更なり」の連用形、事を改めてするさま、わざわざ

やつれ=ラ行下二段動詞「やつる」の連用形、地味で目立たない姿になる、人目につかない服装になる。みすぼらしくなる、やつれる

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

気配(けはひ)=名詞、風情、雰囲気。物腰、態度。

しるく=ク活用の形容詞「しるし」の連用形、きわだっている、はっきりしている、明白である。

見ゆる=ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連体形、見える、分かる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。

=名詞

二つ=名詞

あり=ラ変動詞「あり」の終止形

 

ほのかなる袖口、()の裾、汗衫(かざみ)など、ものの色、いときよらにて、ことさらにやつれたるけはひしるく見ゆる車、二つあり。

わずかに見える袖口、裳の裾、汗衫など、衣服の色合いがたいそう美しくて、わざと地味で目立たないようにしている様子がはっきりと分かる車が二両ある。

※お忍びで来ている六条の御息所の車である。

 

 

これ=代名詞

=係助詞

さらに=副詞、下に打消の表現を伴って「けっして~、すこしも~」。その上、重ねて。改めて

さやうに=ナリ活用の形容動詞「さやうなり」の連用形

さし退け=カ行下二段動詞「さし退く」の連用形

など=副助詞

=サ変動詞「す」の終止形、する。

べき=適当の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある

御車=名詞

=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

=係助詞

あら=ラ変動詞「あり」の未然形

=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

=格助詞

口強く=ク活用の形容詞「口強し」の連用形

=接続助詞

=名詞

触れ=ラ行下二段動詞「触る」の未然形

させ=使役の助動詞「さす」の未然形、接続は未然形。「さす」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。

=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

「これは、さらにさやうにさし退けなどすべき御車にもあらず。」と、口強くて、手触れさせず。

「この車は、決してそのように押しのけなどしてよい御車でもない。」と、(六条の御息所の車を引く供人は)強く言い張って、(車に)手を触れさせない。

 

 

いづかた=代名詞

=格助詞

=係助詞

若き=ク活用の形容詞「若し」の連体形

者ども=名詞

酔ひ過ぎ=ガ行上二段動詞「酔ひ過ぐ」の連用形

立ち騒ぎ=ガ行四段動詞「立ち騒ぐ」の連用形

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形

ほど=名詞

=格助詞

こと=名詞

=係助詞

=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」

したためあへ=ハ行下二段動詞「したためあふ」の未然形、しっかり抑止する、止める、抑える、

認む(したたむ)=マ行下二段動詞、整理する、きちんとまとめる。治める、支配する。

敢ふ(あふ)=補助動詞ハ行下二、完全に~しきる、十分に~する、終わりまで~しおおせる

=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形

 

いづかたにも、若き者ども酔ひ過ぎ、立ち騒ぎたるほどのことは、えしたためあへず。

どちらの側でも、若い連中が酔い過ぎてわいわい騒いでいる時のことは、とても抑止することはできない。

 

 

おとなおとなしき=シク活用の形容詞「大人大人し」の連体形、(大人は落ち着いていて思慮分別のあることから)年をとっていて分別がある、思慮分別がある。大人びている。年配で頭だっている

御前=名詞

=格助詞

人々=名詞

=係助詞

かく=副詞、このように、こんな、こう

=副詞

かくな=「かく/な/せ/そ」の略

な=副詞、せ=サ変動詞の未然形、そ=終助詞

「な~そ」で「~するな(禁止)」を表す。

など=副助詞

言へ=ハ行四段動詞「言ふ」の已然形

=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく

=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」

とどめあへ=ハ行下二段動詞「止め敢ふ(とどめあふ)」の未然形

=打消の助動詞「ず」の終止形

 

おとなおとなしき御前の人びとは、「かくな。」など言へど、えとどめあへず。

年配で分別のある御前駆の人々は、「そのようなことはするな」などと言うけれど、とても抑えられるものではない。

 

 

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 源氏物語『車争ひ』まとめ