「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら源氏物語『車争ひ』現代語訳(1)(2)
日たけゆきて、儀式もわざと なら ぬさまにて出で給へ り。
わざと=副詞、わざわざ、特に心を用いて。正式に、本格的に特に、特別に
なら=断定の助動詞「なり」の未然形、接続は体言・連体形
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
給へ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の已然形、尊敬語。動作の主体である葵の上を敬っている。
り=完了の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
日が高くなって、お支度も特に改まったふうでない様子で(葵の上は)お出かけになった。
隙もなう立ちわたり たるに、よそほしう引き続きて立ちわづらふ。
立ちわたり=ラ行四段動詞「立ちわたる」の連用形、立ち並んでいる
わたる=補助動詞ラ行四段、一面に~する、ずっと~し続ける
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
よそほしう=シク活用の形容詞「装し」の連用形が音便化したもの、整って立派である、厳めしく美しい
立ちわづらふ=ハ行四段動詞「立ちわづらふ」の終止形、車などを置くのに困る
物見の車が隙間もなく立ち並んでいる所に、(葵の上たちは)立派に整って列をなしたまま車を止めるのに困っている。
よき女房車多くて、雑々の人なき隙を思ひ定めて、皆さし退けさするなかに、
さする=使役の助動詞「さす」の連体形、接続は未然形。「さす」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
身分の高い女性の車が多いので、(その中に)身分の低い者がいない場所を見つけて、(その辺の車を)みな立ち退かせる中に、
網代(あじろ)のすこしなれ たるが、下簾(しもすだれ)のさまなどよしばめ るに、いたう引き入りて、
なれ=ラ行下二段動詞「馴る」の連用形、(使い古して)なじむ、うちとける
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
よしばめ=マ行四段動詞「よしばむ」の已然形、由緒ありげな様子をしている、気取っている
る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形
網代車で少し使いならした車が、下簾の様子などが由緒ありげなうえに、(乗車している女性が)奥の方に乗っていて、
ほのかなる袖口、裳(も)の裾、汗衫(かざみ)など、ものの色、いときよらにて、ことさらに やつれ たるけはひしるく 見ゆる車、二つあり。
きよらに=ナリ活用の形容詞「清らなり」の連用形、美しい
ことさらに=ナリ活用の形容動詞「殊更なり」の連用形、事を改めてするさま、わざわざ
やつれ=ラ行下二段動詞「やつる」の連用形、地味で目立たない姿になる、人目につかない服装になる。みすぼらしくなる、やつれる
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
しるく=ク活用の形容詞「しるし」の連用形、きわだっている、はっきりしている、明白である。
見ゆる=ヤ行下二動詞「見ゆ」の連体形、見える、分かる。「ゆ」には「受身・自発・可能」の意味が含まれていたり、「見ゆ」には多くの意味がある。
わずかに見える袖口、裳の裾、汗衫など、衣服の色合いがたいそう美しくて、わざと地味で目立たないようにしている様子がはっきりと分かる車が二両ある。
※お忍びで来ている六条の御息所の車である。
「これは、さらにさやうにさし退けなどすべき御車にもあらず。」と、口強くて、手触れさせ ず。
さらに=副詞、下に打消の表現を伴って「けっして~、すこしも~」。その上、重ねて。改めて
べき=適当の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変なら連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
させ=使役の助動詞「さす」の未然形、接続は未然形。「さす」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
「この車は、決してそのように押しのけなどしてよい御車でもない。」と、(六条の御息所の車を引く供人は)強く言い張って、(車に)手を触れさせない。
いづかたにも、若き者ども酔ひ過ぎ、立ち騒ぎたるほどのことは、え したためあへ ず。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」
したためあへ=ハ行下二段動詞「したためあふ」の未然形、しっかり抑止する、止める、抑える、
認む(したたむ)=マ行下二段動詞、整理する、きちんとまとめる。治める、支配する。
敢ふ(あふ)=補助動詞ハ行下二、完全に~しきる、十分に~する、終わりまで~しおおせる
ず=打消の助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
どちらの側でも、若い連中が酔い過ぎてわいわい騒いでいる時のことは、とても抑止することはできない。
おとなおとなしき御前の人びとは、「かくな。」など言へど、えとどめあへず。
おとなおとなしき=シク活用の形容詞「大人大人し」の連体形、(大人は落ち着いていて思慮分別のあることから)年をとっていて分別がある、思慮分別がある。大人びている。年配で頭だっている
かくな=「かく/な/せ/そ」の略
かく=副詞、このように、こんな、こう
な=副詞、せ=サ変動詞の未然形、そ=終助詞
「な~そ」で「~するな(禁止)」を表す。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形につく
年配で分別のある御前駆の人々は、「そのようなことはするな」などと言うけれど、とても抑えられるものではない。
続きはこちら源氏物語『車争ひ』解説・品詞分解(3)
問題はこちら源氏物語『車争ひ』問題(前半)