「青字=解答」・「※赤字=注意書き、解説等」
問題はこちら竹取物語『天の羽衣・かぐや姫の昇天』(1)問題1
立てる人どもは、装束のきよらなること、ものにも似ず。飛ぶ車一つ具したり。羅蓋さしたり。
その中に、王とおぼしき人、家に、「造麻呂、まうで①来。」と言ふに、猛く思ひつる造麻呂も、ものに酔ひたる心地して、うつぶしに伏せり。
いはく、「②汝、幼き人。いささかなる③功徳を、翁つくりけるによりて、汝が助けにとて、かた時のほどとて下し④しを、そこらの年ごろ、そこらの黄金賜ひて、身を変へたるがごとなりにたり。
かぐや姫は罪をつくりたまへりけれ⑤ば、かく賤しきおのれがもとに、しばしおはしつるなり。
罪の限り果てぬれば、かく迎ふるを、翁は泣き嘆く。⑥あたはぬことなり。はや返したてまつれ。」と言ふ。
翁答へて申す、「かぐや姫を養ひたてまつること二十余年になりぬ。『⑦かた時』とのたまふに、あやしくなりはべりぬ。また異所にかぐや姫を申す人ぞ⑧おはす⑨らむ。」と言ふ。
「ここにおはするかぐや姫は、重き病をしたまへば、⑩え出でおはしますまじ。」と⑪申せ⑫ばその返りごとはなくて、
屋(や)の上に飛ぶ車を寄せて、「いざ、かぐや姫、穢き所に、⑬いかでか久しくおはせむ。」と言ふ。
立て籠めたる所の戸、すなはちただ開きに開き⑭ぬ。格子どもも、人はなくして開きぬ。嫗抱きてゐたるかぐや姫、外に出でぬ。
えとどむまじければ、たださし仰ぎて泣きをり。
竹取心惑ひて泣き伏せる所に寄りて、かぐや姫言ふ、「⑮ここにも心にもあらでかくまかるに、昇らむをだに見送りたまへ。」と言へども、
「⑯なにしに悲しきに見送りたてまつらむ。我をいかにせよとて、捨てては昇りたまふぞ。具して率て⑰おはせね」と泣きて伏せれば、御心⑱惑ひぬ。
「文を書き置きてまから⑲む。恋しからむ折々、取り出でて見たまへ」とて、うち泣きて書く言葉は、
「この国に生まれぬるとなら⑳ば、嘆か㉑せ奉ら㉒ぬほどまで㉓侍らむ。過ぎ別れぬること、返す返す㉔本意なくこそおぼえ侍れ。脱ぎ置く衣を、形見と見給へ。月の出でたら㉕む夜は、見おこせ給へ。見捨て㉖奉りてまかる空よりも、落ち㉗ぬべき心地する。 」
と書き置く。
問題1.①来、②汝、③功徳、㉔本意、と「翁」、「嫗」、の漢字の読みを答えよ。
①こ
②なんじ(なんぢ)
③くどく
㉔ほい
翁:おきな
嫗:おうな
問題2.⑥あたはぬ、㉔本意なし、のここでの意味を答えよ。
⑥できない
㉔残念だ・不本意だ
問題3.④し、⑨らむ、⑭ぬ、⑲む、㉑せ、㉒ぬ、㉕む、㉗ぬ、の助動詞の文法的意味として、「ア~シ」の記号から適当なものを一つ選んで答えよ。
ア.使役 イ.尊敬 ウ.過去 エ.完了 オ.強意 カ.打消 キ.推量 ク.意志 ケ.勧誘 コ.婉曲 サ.現在推量 シ.過去推量
④ウ.過去
⑨サ.現在推量
⑭エ.完了
⑲ク.意志
㉑ア.使役
せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
㉒カ.打消
㉕コ.婉曲
㉗オ.強意
ぬ=強意の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形。完了・強意の助動詞「つ・ぬ」の直後に推量系統の助動詞(む・べし・らむ・まし)などが来ている時には、強意の意味で使われる。
問題4.「⑱惑ひぬ」の主語を答えよ。
⑱かぐや姫
問題5.⑤、⑫、⑳の接続助詞「ば」の意味・用法として適当なものを次の記号から選びなさい。
ア.原因・理由 イ.偶然条件 ウ.恒常条件 エ.仮定条件
⑤ア.原因・理由
⑫イ.偶然条件
⑳エ.仮定条件
ば=接続助詞、直前が已然形だと①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかである。直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
偶然条件かどうかの判断として、「~ところ、(偶然・たまたま)~」と言ったニュアンスがあるのか確かめると良い。
問題6.かぐや姫を育てたのは二十年あまりであるのに、それを天人が「⑦かた時(わずかな期間)」と言ったことから人違いではないかと翁は異を唱えた。しかし、これは苦しい言い訳である。その理由を下記の空欄を埋めて答えよ。空欄には本文から抜き出して五字以上十字以内で書きなさい。
理由:天人は確かに「かた時」と言っているが、【 そこらの年ごろ 】とも言っているから。
そこら=副詞、多く、たくさん
年ごろ=名詞、長年、長い間
問題7.⑧おはす、⑪申せ、⑰おはせ、㉓侍ら、㉖奉り、の敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧のどれか)と誰から誰に対しての敬意の表現であるかを、例にならって答えよ。
単語 |
敬語の種類 |
誰から |
誰に対して |
(例)たまへ |
尊敬語 |
天人 |
かぐや姫 |
⑧おはす |
尊敬語 |
翁 |
かぐや姫を申す人 |
⑪申せ |
謙譲語 |
作者 |
天人 |
⑰おはせ |
尊敬語 |
翁 |
かぐや姫 |
㉓侍ら |
謙譲語 |
かぐや姫 |
翁/翁と嫗 |
㉖奉り |
謙譲語 |
かぐや姫 |
翁/翁と嫗 |
※誰からに関しては、すべてその敬語を使った人間からの敬意である
尊敬語は動作の主体を敬う
謙譲語は動作の対象を敬う
丁寧語はその言葉の受け手(聞き手/読み手)を敬う。
問題8.「⑩え出でおはしますまじ」、「⑬いかでか久しくおはせむ」、「⑮ここにも心にもあらでかくまかるに、昇らむをだに見送りたまへ」、「⑯なにしに悲しきに見送りたてまつらむ」、の現代語訳を答えよ。
⑩出ていらっしゃることができないでしょう
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない」
おはします=サ行四段動詞「おはします」の終止形。「おはす」より敬意が高いもの。動作の主体であるかぐや姫を敬っている。
まじ=打消推量の助動詞「まじ」の終止形、接続は終止形(ラ変なら連体形)
⑬どうして長い間いらっしゃるのですか。(帰りましょう。)
いかで=副詞、(反語で)どうして
か=反語の係助詞、結びは連体形となる。係り結び
おはせ=サ変動詞「おはす」の未然形、「あり」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体であるかぐや姫を敬っている。
む=意志の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
⑮私においても、心ならずもこのように(月の世界に)帰るのですから、せめて空へ昇るのを見送りなさってください
ここ=代名詞、私、ここ、あなた
で=打消の接続助詞、接続は未然形。「ず(打消しの助動詞)+して(接続助詞)」→「で」となったもの。
斯く(かく)=副詞、このように、こう
まかる=ラ行四段動詞「まかる」の連体形、謙譲語。退出する。参る。
む=婉曲の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。
だに=副助詞、強調:(せめて)~だけでも。類推:~さえ
たまへ=補助動詞ハ行四段「たまふ」の命令形、尊敬語。動作の主体である竹取の夫妻を敬っている
⑯どうして悲しいのにお見送り申し上げようか
何為に(なにしに)=副詞、(反語で)どうして~か(。いや、ない)。なんのために。
たてまつら=補助動詞ラ行四段「奉る」の未然形、謙譲語。動作の対象であるかぐや姫を敬っている。
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。