「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら竹取物語『天の羽衣・かぐや姫の昇天』現代語訳(2)
天人の中に、持たせ たる箱あり。天の羽衣入れ り。またあるは、不死の薬入れ り。
せ=使役の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。「す」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形
入れ=ラ行四段動詞「入る」の已然形。入る。下二段活用だと「入れる」という意味なので注意。直後に存続の助動詞「り」が来ているところから已然形だと分かり、四段活用だと判断できる。
り=存続の助動詞「り」の終止形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形。もう一つの「り」も同じ
ある=ラ変動詞「あり」の連体形。直後に体言である「箱」が省略されているため連体形(体言に連なる形)となっている。
天人の中の(一人に)持たせている箱がある。(その中に)天の羽衣が入っている。またある箱には、不死の薬が入っている。
一人の天人言ふ、「壺なる御薬奉れ。穢(けが)き所の物きこしめし たれ ば、御心地悪しからむものぞ。」とて、
なる=存在の助動詞「なり」の連体形、接続は体言・連体形。「なり」は直前が名詞である時、断定の意味になることが多いが、その名詞が場所を表すものであれば今回のように「存在」の意味となる。
奉れ=ラ行四段動詞「奉(たてまつ)る」の命令形、尊敬語。召しあがる、お飲みになる。動作の主体であるかぐや姫を敬っている。
※「奉る・参る」は目的語に「衣(衣服)・食(食べ物、飲み物)・乗(乗り物)」が来るときは尊敬語となる。「衣(い)・食(しょく)・乗(じょう)」と覚えると良い。「衣:お召しになる、着なさる」、「食:召しあがる、お食べになる」、「乗:お乗りになる」
※「奉る」は基本的に謙譲語。本動詞として「差し上げる」だったり、補助動詞として「~し申し上げる」となる。
きこしめし=サ行四段動詞「きこしめす」の連用形、「食ふ・飲む・聞く・聞き入る・治む・行ふ」の尊敬語。動作の主体であるかぐや姫を敬っている。
たれ=完了の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形。文中の「む」であるが、ここでの意味は「推量」ととらえるのが適切
ぞ=係助詞
一人の天人が言うことには、「壺にあるお薬をお飲みください。けがれた所のものを召しあがったので、ご気分が悪いことでしょうよ。」といって、
持て寄りたれ ば、いささかなめたまひて、少し形見とて、脱ぎ置く衣に包まむとすれば、ある天人、包ませ ず。
たれ=完了の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形であり、①原因・理由「~なので、~から」の意味で使われている。接続助詞「を・に・ば・ど・も・ども・が」があるとその後に続く文章において主語が変わる可能性がある。読点の直前に「をにばばどもが」の文字のどれかがあれば主語が変わるかもしれないと思えばよい。
たまひ=補助動詞ハ行四段「たまふ」の連用形、尊敬語。動作の主体であるかぐや姫を敬っている
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味で使われている。
せ=使役の助動詞「す」の未然形、接続は未然形。「す」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
ず=打消しの助動詞「ず」の終止形、接続は未然形
(天人が壺を)持って寄って来たので、(かぐや姫は)少しだけおなめになって、(薬の)少しを形見として、脱ぎ置いた衣に包もうとすると、そこにいる天人が包ませない。
御衣(みぞ)を取り出でて着せ むとす。その時に、かぐや姫、「しばし待て。」と言ふ。
着せ=サ行下二段動詞「着す」の未然形、着せる
む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
(天人が)天の羽衣を取り出して(かぐや姫に)着せようとする。その時に、かぐや姫が「ちょっと待ちなさい。」と言う。
「衣着せつる人は、心異になるなりといふ。もの一言、言ひ置くべきことありけり。」と言ひて、文書く。
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
べき=当然の助動詞「べし」の連体形、接続は終止形(ラ変は連体形)。「べし」は㋜推量㋑意志㋕可能㋣当然㋱命令㋢適当のおよそ六つの意味がある
けり=詠嘆の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①は必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
「天の羽衣を着てしまった人は心が(地上の人とは)異なったものになるといいます。何か一言、言い残しておかなければならないことがありますよ。」と言って、手紙を書く。
天人、「遅し。」と、心もとながり たまふ。
心もとながり=ラ行四段動詞「心もとながる」の連用形。じれったく思う、待ち遠しく思う
たまふ=補助動詞ハ行四段「たまふ」の終止形、尊敬語。動作の主体である天人を敬っている
天人は、「遅くなる。」と、じれったく思いなさる。
かぐや姫、「もの知らぬこと、な のたまひ そ。」とて、いみじく静かに、朝廷(おほやけ)に御文奉り たまふ。あわてぬさまなり。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
な=副助詞、そ=終助詞、「な~そ」で「~するな(禁止)」をあらわす。
のたまひ=ハ行四段動詞「のたまふ(宣ふ)」の連用形。「言ふ」の尊敬語。おっしゃる。動作の主体である天人を敬っている。
いみじく=シク活用の形容詞「いみじ」の連用形、(いい意味でも悪い意味でも)程度がひどい、甚だしい、とても
朝廷・公(おほやけ)=名詞、天皇、帝、天皇家、大きな屋敷。朝廷、政府。
奉り=ラ行四段動詞「奉る」の連用形、謙譲語。差し上げる。動作の対象である帝(天皇)を敬っている。
たまふ=補助動詞ハ行四段「たまふ」の終止形、尊敬語。動作の主体であるかぐや姫を敬っている
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
かぐや姫は、「もの分りのないことをおっしゃいますな。」と言って、たいそう静かに帝にお手紙を差し上げなさる。落ち着いた様子である。
「かくあまたの人を賜ひてとどめさせ たまへ ど、許さぬ迎へまうで来て、取り率てまかり ぬれ ば、口惜しく悲しきこと。
賜ひ=ハ行四段動詞「賜ふ」の連用形。「与ふ」の尊敬語。動作の主体である帝を敬っている。
させ=尊敬の助動詞「さす」の連用形、接続は未然形。「さす」は「使役・尊敬」の意味があり、直後に尊敬語が来ているときは文脈判断。動作の主体である帝を敬っている。
たまへ=補助動詞ハ行四段「たまふ」の已然形、尊敬語。上記の「さす」と合わせて二重敬語。帝を敬っている。
ど=逆接の接続助詞、活用語の已然形に付く。接続助詞「を・に・ば・ど・も・ども・が」があるとその後に続く文章において主語が変わる可能性がある。読点の直前に「をにばばどもが」の文字のどれかがあれば主語が変わるかもしれないと思えばよい。
ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形、接続は未然形
まかり=ラ行四段動詞「まかる」の連用形、謙譲語。退出する。参る。
ぬれ=完了の助動詞「ぬ」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
「このように多くの人をお遣わしになって、(私を)お引きとめなさいますけれども、(それを)許さない迎えが参りまして、連れて行ってしまうので、残念で悲しいことです。
宮仕へつかうまつら ずなりぬるも、かくわづらはしき身にてはべれ ば、心得 ず 思しめさ れ つ らめども、
つかうまつら=ラ行四段動詞「つかうまつる」の未然形、謙譲語。お仕え申し上げる
ず=打消しの助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。もう一つの「ず」も同じ
ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形
はべれ=補助動詞ラ変「はべり」の已然形、丁寧語。言葉の受け手(読み手)である帝を敬っている。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
心得=ア行下二動詞「心得(こころう)」の未然形、事情などを理解する。ア行下二段活用の動詞は「得(う)」・「心得(こころう)」・「所得(ところう)」の3つしかないと思ってよいので、大学受験に向けて覚えておくとよい。
思しめさ=サ行四段動詞「思し召す」の未然形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である帝を敬っている。
れ=自発の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。「尊敬」の意味だととらえる説もある。
つ=強意の助動詞「つ」の終止形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる
らめ=現在推量の助動詞「らむ」の已然形、接続は終止形(ラ変なら連体形)
宮仕えをし申し上げぬままになってしまったのも、このように面倒な身の上でございますので、納得できないとお思いになっておられるでしょうが、
心強く承らずなりに しこと、なめげなる者に思しめしとどめられ ぬる なむ、心にとまりはべり ぬる。」とて、
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形
なめげなる=ナリ活用の形容動詞「無礼(なめ)げなり」の連体形、無礼だ、失礼だ。
思しめし=サ行四段動詞「思(おぼ)し召す」の連用形、「思ふ」の尊敬語。動作の主体である帝を敬っている。
られ=受身の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。「らる」は「受身・尊敬・自発・可能」の四つの意味がある。
ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形
なむ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び
はべり=補助動詞ラ変「はべり」の連用形、丁寧語。言葉の受け手(読み手)である帝を敬っている。
ぬる=完了の助動詞「ぬ」の連体形、接続は連用形。係助詞「なむ」を受けて連体形となっている。係り結び
心を強くして(帝のお申し出を)お受けしないままになってしまったこととで、無礼なものだと(帝の)お心にとどめられてしまうことが、心残りでございます。」と書いて、
今はとて 天の羽衣 着るをりぞ 君をあはれと 思ひ出でける
今はとて=「今は限りなりとて」の略である。意味は「今は最後だからといって、もうこれでお別れだといって」
折(をり)=名詞、時、場合、機会
ぞ=強調の係助詞、結びは連体形となる。係り結び
あはれ=形容動詞「あはれなり」の語幹、しみじみと趣深い、しみじみと思う。「あはれ」とは感動したときに口に出す言葉であることから、心が動かされるという意味を持つ名詞や形容詞、形容動詞として使われるようにもなった。
ける=詠嘆の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形。係助詞「ぞ」を受けて連体形。係り結び。「けり」は過去の意味で使われることがほとんどだが、①和歌での「けり」②会話文での「けり」③なりけりの「けり」では詠嘆に警戒する必要がある。①はほぼ必ず詠嘆だが、②③は文脈判断
今はもうお別れだと、天の羽衣を着る時になって、あなた(帝)のことをしみじみと思い出しております。
とて、壺の薬添へて、頭中将呼び寄せて奉ら す。中将に天人取りて伝ふ。
奉ら=ラ行四段動詞「奉る」の未然形、謙譲語。差し上げる。動作の対象である帝(天皇)を敬っている。
す=使役の助動詞「す」の終止形、接続は未然形。「す」には、「使役と尊敬」の二つの意味があるが、直後に尊敬語が来ていない場合は必ず「使役」の意味である。
と書いて、壺の薬を添えて、頭の中将を近くに呼んで、(帝に)献上させる。中将に(天人がかぐや姫から)受け取って渡す。
中将取りつれ ば、ふと天の羽衣うち着せたてまつり つれ ば、翁を、いとほし、かなしと思しつることも失せぬ。
つれ=完了の助動詞「つ」の已然形、接続は連用形。もう一つの「つれ」も同じ
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。もう一つの「ば」は②の意味。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
たてまつり=補助動詞ラ行四段「奉る」の連用形、謙譲語。動作の対象(着せられた人)であるかぐや姫を敬っている。
いとほし=シク活用の形容詞「いとほし」の終止形、かわいそうだ、気の毒だ、不憫だ
かなし=シク活用の形容詞「かなし」の終止形。かわいい、いとおしい。かわいそうだ、心が痛む
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
中将が受け取ったので、(天人が)さっと天の羽衣を(かぐや姫に)お着せ申し上げたので、翁を、気の毒だ、かわいそうだとお思いになったことも消え失せた。
この衣着つる人は、もの思ひなくなりに けれ ば、車に乗りて、百人ばかり天人具して、昇りぬ。
つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
具し=サ変動詞「具(ぐ)す」の連用形、引き連れる、伴う。持っている
ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形
この衣を着た人は、人としての悩みなどが無くなってしまうので、(かぐや姫は)車に乗って、百人ほどの天人を連れて、点に昇ってしまった。