「黒=原文」・「赤=解説」・「青=現代語訳」
原文・現代語訳のみはこちら宇治拾遺物語『小野篁広才の事』現代語訳
問題はこちら宇治拾遺物語『小野篁広才の事』問題1
今は昔、小野篁(おののたかむら)といふ人おはし けり。
おはし=サ変動詞「おはす」の連用形、「あり・居り・行く・来」の尊敬語。いらっしゃる、おられる、あおりになる。動作の主体である小野篁を敬っている。この敬語を使った人間は作者なので作者からの敬意。
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
今となっては昔のことだが、小野篁という人がいらっしゃった。
嵯峨(さが)の帝(みかど)の御時に、内裏(だいり)に札を立て たり けるに、無悪善と書きたりけり。
内裏(だいり)=名詞、宮中、内裏(だいり)。宮中の主要な場所としては紫宸殿(重要な儀式を行う場所)や清涼殿(天皇が普段の生活を行う場所)などがある。
立て=タ行下二動詞「立つ」の連用形、立てる、立たせる。「立つ」はタ行四段動詞でもあり、その時は普通に「立つ」と言う意味になる
たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形。
ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形
たり=存続の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
嵯峨天皇の御代に、宮中に札を立ててあったが、(その札に)「無悪善」と書いてあった。
帝、篁に、「読め。」と仰せ られ たり けれ ば、
仰せ(おほせ)=サ行下二動詞「仰(おほ)す」の未然形。「言ふ」の尊敬語、おっしゃる。動作の主体(おっしゃる人)である天皇を敬っている。作者からの敬意。
られ=尊敬の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。直前の「仰せ」と合わせて二重敬語、いずれも天皇を敬っている。助動詞「らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味があるが、「仰せらる」の場合の「らる」は必ず「尊敬」と思ってよい。
たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
天皇が、篁に、「読め」とおっしゃったので、
「読みは読み候(さぶら)ひ な ん。
は=係助詞
候ひ=補助動詞ハ行四段「候(さぶら)ふ」の連用形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である天皇を敬っている。敬語を使った篁からの敬意。
※「候ふ・侍(はべ)り」は補助動詞だと丁寧語「~です、~ます」の意味であるが、本動詞だと、丁寧語「あります、ございます、おります」と謙譲語「お仕え申し上げる、お控え申し上げる」の二つ意味がある。
※補助動詞=用言などの直後に置いて、その用言に少し意味を添えるように補助する動詞。英語で言う助動詞「canやwill」みたいなもの。
※本動詞=単体で意味を成す動詞、補助動詞ではないもの。
英語だと、「need」には助動詞と通常の動詞としての用法があるが、「候ふ・侍(はべ)り」も意味は違うがこれみたいなもの
な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる
ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
「読むことは読みましょう。
されど、恐れにて候へ ば、え 申し 候は じ。」と奏(そう)しければ、
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
候へ=補助動詞ハ行四段「候(さぶら)ふ」の已然形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である天皇を敬っている。篁からの敬意
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
え=副詞、下に打消の表現を伴って「~できない。」
申し=サ行四段動詞「申す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象(言われる人)である天皇を敬っている。篁からの敬意
候は=補助動詞ハ行四段「候(さぶら)ふ」の未然形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である天皇を敬っている。篁からの敬意
じ=打消意志の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形
奏し=サ変動詞「奏(そう)す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。絶対敬語と呼ばれるもので、「天皇・上皇」に対してしか用いない。よって、天皇を敬っている。この敬語を使った人間は作者なので作者からの敬意。
ば=接続助詞、直前が已然形であり、②偶然条件「~ところ・~と」の意味
しかし恐れ多いことでございますから、申し上げることはできません。」と(篁が天皇に)申し上げたところ、
「ただ申せ。」と、たびたび仰せ られ けれ ば、
申せ=サ行四段動詞「申す」の命令形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象(言われる人)である天皇自身を敬っている。天皇が自分で自分を敬っている。自尊敬語
仰せ(おほせ)=サ行下二動詞「仰(おほ)す」の未然形。「言ふ」の尊敬語、おっしゃる。動作の主体(おっしゃる人)である天皇を敬っている。作者からの敬意。
られ=尊敬の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。直前の「仰せ」と合わせて二重敬語、いずれも天皇を敬っている。助動詞「らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味があるが、「仰せらる」の場合の「らる」は必ず「尊敬」と思ってよい。
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
「とにかく申せ」と、(天皇が)たびたびおっしゃったので、
「さがなくてよからんと申して候ふ ぞ。
さがなくてよから ん=「嵯峨(天皇)がいなければよいだろう」という意味で、嵯峨天皇を呪っている言葉だと考えられる。
さが=「悪」を「さが」と読んでいる。生まれつきの性質の意味である「さが」と嵯峨天皇の「嵯峨(さが)」にかけている
よから=ク活用の形容詞「善し」の未然形
ん=推量の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。
申し=サ行四段動詞「申す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象(言われる人)である天皇を敬っている。篁からの敬意
候ふ=補助動詞ハ行四段「候(さぶら)ふ」の終止形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である天皇を敬っている。篁からの敬意
ぞ=係助詞
「さがなくてよからんと申しております。
されば、君を呪(のろ)ひ参らせて候ふ なり。」と申し けれ ば、
されば=接続詞、それゆえ、それで。そもそも、いったい
参らせ=補助動詞サ行下二「参らす」の連用形、謙譲語。動作の対象(呪われる人)である天皇を敬っている。篁からの敬意
候ふ=補助動詞ハ行四段「候(さぶら)ふ」の連体形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である天皇を敬っている。篁からの敬意
なり=断定の助動詞「なり」の終止形、接続は体言・連体形
申し=サ行四段動詞「申す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象(言われる人)である天皇を敬っている。作者からの敬意
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
それで、天皇を呪い申し上げてございます。」と(篁が)申したところ、
「おのれ 放ちては、たれか書かん。」と仰せ られければ、
おのれ=名詞、(見下して)おまえ、きさま。自分自身、(謙譲の意を込めて)私
放ち=タ行四段動詞「放つ」の連用形、除く、除外する、さしおく
か=反語の係助詞、結び(文末)は連体形となる。係り結び
ん=推量の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。係助詞「か」を受けて連体形となっている。係り結び。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
仰せ(おほせ)=サ行下二動詞「仰(おほ)す」の未然形。「言ふ」の尊敬語、おっしゃる。動作の主体(おっしゃる人)である天皇を敬っている。作者からの敬意。
られ=尊敬の助動詞「らる」の連用形、接続は未然形。直前の「仰せ」と合わせて二重敬語、いずれも天皇を敬っている。助動詞「らる」には「受身・尊敬・自発・可能」の4つの意味があるが、「仰せらる」の場合の「らる」は必ず「尊敬」と思ってよい。
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
「お前を除いては、誰が書くだろうか。(いや、お前しか書くやつはいない。)」と(天皇が)おっしゃったので、
※しっかりとした教養がなければ書けないことであるため、天皇は立札の犯人を篁だと考えた。天皇は篁の才能を認めてもいる。
「さればこそ、申し 候は じとは申して候ひつれ。」と申すに、
こそ=強調の係助詞、結びは已然形となる。係り結び
申し=サ行四段動詞「申す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象(言われる人)である天皇を敬っている。篁からの敬意
候は=補助動詞ハ行四段「候(さぶら)ふ」の未然形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である天皇を敬っている。篁からの敬意
じ=打消意志の助動詞「じ」の終止形、接続は未然形
つれ=完了の助動詞「つ」の已然形、接続は連用形。係助詞「こそ」を受けて已然形となっている。係り結び
申す=サ行四段動詞「申す」の連体形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象(言われる人)である天皇を敬っている。作者からの敬意
「だからこそ、(天皇がそのように私を疑うと思いましたので、)申し上げることはできませんと(私は)申したのでございます。」と(篁が)申すと、
帝、「さて、なにも書きたら んものは、読みて ん や。」と仰せられければ、
たら=存続の助動詞「たり」の未然形、接続は連用形
ん=婉曲の助動詞「む」の連体形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文中に来ると「㋕仮定・㋓婉曲」のどれかである。直後が名詞だと「㋓婉曲」になりがち。訳:「書いてある(ような)もの」。
て=強意の助動詞「つ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる
ん=推量の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
や=疑問の終助詞
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして①の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
天皇は、「さて、(お前は)何でも書いてあるものは、確かに読めるのか。」とおっしゃったので、
「何にても、読み候ひ な ん。」と申しければ、
に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形
候ひ=補助動詞ハ行四段「候(さぶら)ふ」の連用形、丁寧語。言葉の受け手(聞き手)である天皇を敬っている。篁からの敬意
な=強意の助動詞「ぬ」の未然形、接続は連用形。「つ・ぬ」は「完了・強意」の二つの意味があるが、直後に推量系統の助動詞「む・べし・らむ・まし」などが来るときには「強意」の意味となる
ん=意志の助動詞「む」の終止形が音便化したもの、接続は未然形。この「む」は、㋜推量・㋑意志・㋕勧誘・㋕仮定・㋓婉曲の五つの意味があるが、文末に来ると「㋜推量・㋑意志・㋕勧誘」のどれかである。
申し=サ行四段動詞「申す」の連用形、「言ふ」の謙譲語。動作の対象(言われる人)である天皇を敬っている。篁からの敬意
ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②の意味でとる。ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。
「何でも、読みましょう。」と(篁が)申し上げたところ、
片仮名のね文字を十二書かせ 給ひて、「読め。」と仰せられければ、
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。直後に尊敬語が来ているので「使役」か「尊敬」か文脈判断。動作の主体(書く人)である天皇を敬っている。作者からの敬意。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。直前の「せ」と合わせて天皇を敬っている。二重敬語。作者からの敬意
(天皇は)片仮名の『子(ね)』の文字を十二文字お書きになって、「読め。」とおっしゃったので、
「猫の子の子猫、獅子(しし)の子の子獅子(こじし)。」と読みたり ければ、
子=「シ」と「コ」と「ネ」の読みがある。「の」は漢文における送り仮名。つまり十二文字の「子」を強引に意味が通るように読んだ。
たり=完了の助動詞「たり」の連用形、接続は連用形
けれ=過去の助動詞「けり」の已然形、接続は連用形
「猫の子の子猫、獅子(しし)の子の子獅子(こじし)」と(篁が)読んだところ、
帝、ほほゑませ たまひて、事なくてやみ に けり。
せ=尊敬の助動詞「す」の連用形、接続は未然形。直後に尊敬語が来ているので「使役」か「尊敬」か文脈判断。動作の主体(ほほ笑んだ人)である天皇を敬っている。作者からの敬意。
給ひ=補助動詞ハ行四段「給ふ」の連用形、尊敬語。直前の「せ」と合わせて天皇を敬っている。二重敬語。作者からの敬意
事なく=ク活用の形容詞「事なし」の連用形、難点がない、欠点がない。何事もない、平穏無事だ。何でもない。
やみ=マ行四段動詞「止む」の連用形。終わる、(続いていたことが)中止になる
に=完了の助動詞「ぬ」の連用形、接続は連用形
けり=過去の助動詞「けり」の終止形、接続は連用形
天皇は、ほほ笑みなさって、何のおとがめもなくすんだのであった。