青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
推敲=良い詩文を作るために、字句をさまざまに考え練ること。文章を何度も練り直すこと
賈島赴レキテ挙ニ至レリ京ニ、
賈島(かたう)挙に赴(おもむ)きて京に至り、
賈島が科挙を受験するために都(の長安)に行き、
騎レリテ驢ニ賦レシ詩ヲ、得二タリ「僧ハ推ス月下ノ門」之句一ヲ。
驢(ろ)に騎(の)りて詩を賦(ふ)し、「僧は推(お)す月下の門」の句を得たり。
ロバに乗って詩を作っていると、「僧は推す月下之門」という句を思いついた。
欲二ス改レメテ推ヲ作一レサント敲ト。
推を改めて敲と作(な)さんと欲す。
(しかし、考え直して、)「推す」を「敲く」にしようと思った。
引レキテ手ヲ作二スモ推敲之勢一ヲ、未レダ/ず決セ。
手を引きて推敲の勢を作すも、未(いま)だ決せず。
※未=再読文字、「未だ~(せ)ず」、「まだ~(し)ない」
手を伸ばして「推す」と「敲く」のしぐさをしてみたが、決めかねていた。
不レシテ覚エ衝二タル大尹韓愈一ニ。乃チ具ニ言フ。
覚えず大尹(たいゐん)韓愈(かんゆ)に衝(あ)たる。 乃(すなは)ち具(つぶさ)に言ふ。
思わず都の長官である韓愈にぶつかった。賈島が(事の次第を)くわしく話した。
愈曰ハク、「敲ノ字佳シト矣。」
愈曰はく、 「敲の字佳(よ)し。」と。
(すると、)韓愈は「敲の字が良い。」と言った。
遂ニ並レベテ轡ヲ論レズルコト詩ヲ久レシクス之ヲ。
遂に轡(たづな)を並べて詩を論ずること之を久しくす。
(そして、二人は)そのままたづなを並べて、しばらく詩について論じ合った。