青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
虎の威を借る狐=有力者の権力をかさに着ていばるつまらぬ者
虎求二メテ百獣一ヲ而食レラヒ之ヲ、得レタリ狐ヲ。
虎、百獣を求めて之を食らひ、狐を得たり。
虎がたくさんの動物を探して食べていたところ、狐を捕まえた。
狐曰ハク、「子無二カレ敢ヘテ食一レラフコト我ヲ也。
狐曰はく「子敢へて我を食らふこと無かれ。
※「無二カレA一スル(コト)」=禁止、「Aしてはならない」
也=読まない。後に出てくる「也」は「なり」と読む
狐は「あなたは決して私を食べてはいけない。
天帝使三ム我ヲシテ長二タラ百獣一ニ。
天帝、我をして百獣に長(ちょう)たらしむ。
※使=使役「使二AヲシテB一(セ)」「AにBさせる」
天帝は私を動物たちの長(おさ)とした。
今子食レラハバ我ヲ、是レ逆二ラフ天帝ノ命一ニ也。
今子我を食らはば、是れ天帝の命に逆らふなり。
今あなたが私を食べたなら、それは天帝の命令にそむくことになるのである。
子以レテ我ヲ為レサバ不レト信ナラ、吾為レニ子ノ先行セン。
子我を以て信ならずと為さば、吾子の為に先行せん。
あなたが私のことを信じないのならば、私はあなたのために先に立って行きましょう。
子隨二ヒテ我ガ後一ニ観ヨ。百獣之見レテ我ヲ、而敢ヘテ不レラン走ラ乎ト。」
子我が後に随ひて観みよ。百獣の我を見て、敢へて走らざらんや。」と。
※敢ヘテ不二A一(せ)乎」=反語「どうしてAしないことがあろう。(いや、きっとAする。)」
あなたは私の後についてきてご覧ください。動物たちは私を見て、逃げださないことがありましょうか。(いえ、きっと逃げるでしょう。)」と言った。
虎以テ為レス然リト。故ニ遂ニ与レ之行ク。獣見レテ之ヲ皆走ル。
虎以て然りと為す。故に遂に之と行く。獣之を見て皆走る。
※与=と
虎は(その話を)もっともだと思った。それで、とうとう狐と一緒に歩いて行った。動物たちはこの狐と虎を見るとみんな逃げた。
虎不レル知二ラ獣ノ畏レレテ己ヲ而走一ルヲ也。以為ヘラク、畏レルル狐ヲ也ト。
虎獣の己を畏れて走るを知らざるなり。以為へらく狐を畏るるなりと。
※「以為ヘラク」=~だと思う。思うことには~。
虎は動物が自分を恐れて逃げたのが分からなかったのである。(虎は自分ではなく、)狐を恐れているのだと思った。