青=現代語訳・下小文字=返り点・上小文字=送り仮名・解説=赤字
画竜点睛=物事を立派に完成させるための最後の仕上げ。物事の最も肝心なところ
画竜点睛を欠く=ほとんど完成しているが、最後の仕上げが不十分である。最も肝心なところが抜けている。
張僧繇ハ、呉中ノ人也。
張僧繇(ちょうそうよう)は、呉中の人なり。
張僧繇は、呉中の人である。
武帝崇-二飾シ仏寺一ヲ、多ク命二ジテ僧繇一ニ画レカシム之ニ。
武帝仏寺を崇飾(すうしょく)し、多く僧繇に命じて之に画(ゑが)かしむ。
※「命レジテAニB(セ)シム」=使役、「Aに命じてB(せ)しむ」、「Aに命じてBさせる」
武帝は仏寺を立派に飾り、多く張僧繇に命じて仏寺に(壁画を)描かせた。
金陵ノ安楽寺ノ四白竜ハ、不レ点二ゼ眼睛一ヲ。
金陵の安楽寺の四白竜(しはくりゅう)は、眼睛(がんせい)を点(てん)ぜず。
金陵の安楽寺に描いた四匹の白竜は、ひとみを書き入れなかった。
毎ニ云フ、「点レゼバ睛ヲ、即チ飛ビ去ラント。」
毎(つね)に云う、「睛(ひとみ)を点ぜば、即(すなは)ち飛び去らん。」と。
(僧繇は)常に言っていた、「ひとみを書き入れたら、すぐに飛び去ってしまうだろう。」と。
人以テ為二シ妄誕一ト、固ク請フ点レゼンコトヲ之ヲ。
人以つて妄誕と為(な)し、固く之を点ぜんことを請(こ)ふ。
人々は、(この事を)でたらめだと思って、強固にひとみを書き入れることを求めた。
須臾ニシテ雷電アリテ破レリ壁ヲ、両竜乗レリ雲ニ、騰リテ去二ル上天一ニ。
須臾(しゅゆ)にして雷電ありて壁を破り、両竜雲に乗り、騰(をど)りて上天に去る。
(僧繇がひとみを書き入れると、)瞬く間に雷鳴が響き電光が生じて壁を破り、二匹の竜は雲に乗り、おどり上がって、天高く飛び去った。
二竜ノ未レダ/ざル点レゼ眼ヲ者ハ、見ニ在リ。
二竜の未(いま)だ眼を点ぜざる者は、見(げん)に在(あ)り。
※未=再読文字、「未だ~(せ)ず」、「まだ~(し)ない」
(残りの)二匹の竜でひとみを描きいれていないものは、現在も存在している。