平家物語『能登殿の最期』(3)現代語訳(平教経vs源義経in壇ノ浦)

「黒=原文」・「青=現代語訳」
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ここに土佐国の住人、安芸郷(あきごう)を知行(ちぎょう)しける安芸大領実康(さねやす)が子に、安芸太郎実光(さねみつ)とて、三十人が力持つたる大力(だいじから)の剛の者あり。

さてそこで、土佐の国の住人で、安芸郷を支配していた安芸の大領実康の子に、安芸の太郎実光といって、三十人分の力を持っている大力の剛の者がいた。


われにちつとも劣らぬ郎等(ろうどう)一人、おととの次郎も普通にはすぐれたるしたたか者なり。

(実光は)自分より少しも劣らない家来一人(を従えており)、弟の次郎も並みよりはすぐれている剛の者であった。


安芸太郎、能登殿を見たてまつて申しけるは、

安芸の太郎が能登殿を見申して申し上げたことには、


「いかに猛(たけ)うましますとも、われら三人取りついたらんに、たとひたけ十丈の鬼なりとも、などか従へざるべき」とて、

「どんなに勇猛でいらっしゃるとしても、我ら三人が取り組んだなら、たとえ背丈が十丈の鬼であっても、どうして組み伏せずにおこうか。(いや、組み伏せる。)」と言って、


主従三人小舟に乗つて、能登殿の船に押し並べ、「えい」と言ひて乗り移り、甲のしころを傾(かたぶ)け、太刀を抜いて、一面に打つてかかる。

主従三人(実光・次郎・家来)が小舟に乗って、能登殿の船に押し並べ、「えい。」と言って乗り移り、甲のしころを傾けて、太刀を抜いて、三人並んでいっせいにかかった。



能登殿のちつとも騒ぎたまはず、まつ先に進んだる安芸太郎が郎等を、裾(すそ)を合はせて、海へどうど蹴入れたまふ。

能登殿は少しもあわてなさらず、まっ先に進んだ安芸の太郎の家来を、裾が合うほど近づいて、海へどすんと蹴り入れなさった。


続いて寄る安芸太郎を、弓手(ゆんで)の脇に取つてはさみ、弟の次郎をば馬手(めて)の脇にかいばさみ、ひと締め締めて、

続いて寄ってくる安芸の太郎(実光)を、左手のわきに抱えて挟み、弟の次郎を右手のわきに挟み、一締め締めつけて、


「いざうれ、さらばおれら、死出の山の供せよ」とて、生年二十六にて、海へつつとぞ入りたまふ。

「さあ、きさまら、それではおまえたち、死出の山への供をせよ。」と言って、年齢二十六歳で、海へさっと入りなさった。

平家物語『能登殿の最期』(3)解説・品詞分解

平家物語『能登殿の最期』まとめ