更級日記 『門出(あこがれ)』(1) 解説・品詞分解

「黒=原文」・「赤=解説」「青=現代語訳」

原文・現代語訳のみはこちら更級日記 『門出(あこがれ)』(1) 現代語訳

問題はこちら更級日記『門出(あこがれ)』(1)問題1


東路(あづまぢ)の道の果てよりも、なほ  奥つ方生ひ出で  たる人、

東路(あづまぢ)=名詞、東海道、京都から東国への道

果て=名詞、終わり、最後

なほ=副詞、①やはり②さらに・もっと③それでもやはり、ここでは②さらに・もっとの意味

奥つ方=名詞、奥の方 、 方=方向、場所、手段

生ひ出づ=動詞、ダ行下二段、生まれ出る、成長する

たる=完了の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形、存続か完了かは文脈判断

東海道の終わり(の所)よりも、さらに奥の方で育った人、


いかばかり  かは  あやしかり  けむ  いかに思ひ始めけること  

いかばかり=副詞、どれほど、どんなに

か=疑問の係助詞、結び(文末)は連体形、最後の「か」も同様、直後の「は」は強調の係助詞

あやし(賤し)=形容詞シク活用、身分が低い、粗末だ、見苦しい、古文では貴族が中心であり貴族にとって庶民は別世界のあやしい者に見えたことから派生

けむ=過去推量の助動詞「けむ」の連体形、接続は連用形

を=接続助詞、逆接、「…のに」

いかに=副詞、どのように、なぜ

ける=過去の助動詞「けり」の連体形、接続は連用形

に=断定の助動詞「なり」の連用形、接続は体言・連体形

どんなにか見すぼらしかっただろうに、どうして思い始めたことであろうか、


世の中に物語といふもの    なるを、

の=格助詞、主格、「物語というものがあるそうな、」

あ=ラ変動詞「あり」の連体形が音便化して無表記になったもの、「ある」→「あん」→「あ

なる=伝聞の助動詞「なり」の連体形、接続は終止形(ラ変は連体形)、直前にラ変の連体形が来ているため、「断定・存在」と「伝聞・推定」の可能性があるが、直前に音便化かあるいは無表記のものがある場合には「伝聞・推定」の意味だと考えてよい。
 さらに、直前に音や声を表す言葉が来ていないときは、「伝聞」だと思ってよい。「なり」の「推定」は聞いたことを根拠に推定するものだからである。

「世の中に物語というものがあるとかいうものを、


いかでばやと思ひつつつれづれなる昼間、宵居(よひゐ)などに、

いかで=副詞、どうにかして

ばや=願望の終助詞、接続は未然形、

つつ=接続助詞、①反復「~しては~」②継続「~し続けて」③並行「~しながら」④(和歌で)詠嘆、ここでは①反復の意味で使われているので訳す際に注意が必要、若干②継続の意味もあるかもしれないが、③の意味で訳してはならない。

つれづれなり=形容動詞ナリ活用、何もすることがなく手持ちぶさたなさま、退屈なさま

どうにかして見たいとしきりに思い続けて(思い思いして)、何もすることがない昼間や、夜起きているときなどに、



姉・継母(ままはは)などやうの人々の、その物語、かの物語、光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、

姉や継母などというような人々が、あの物語、この物語、(源氏物語の)光源氏の有様など、ところどころ聞くと、


いとど  ゆかしさまされ

いとど=副詞、ますます、いっそう

ゆかしさ=名詞、心が引かれる感じ、憧れるという気持ち

ど=接続助詞、逆接、接続は已然形

ますますあこがれる気持ちが募るけれども、


わが思ふままに、そらにいかでおぼえ語ら

そらに=形容動詞、暗記して、そらで覚えて

か=反語の係助詞、結びは連体形

む=推量の助動詞「む」の連体形、接続は未然形、係助詞「か」の係り結びを受けて連体形となっている。「む」は文末に来ると「推量」「意志」「勧誘」のどれかであるのであとは文脈判断

私の思うとおりに、暗記して覚えていて語ってくれることがどうしてあるだろうか。(いや、ない。)


いみじく  心もとなきままに、等身に薬師仏(やくしぼとけ)を作りて、手洗ひなどして、

いみじ=形容詞シク活用、はなはだしい、すばらしい、ひどい

心もとなし=形容詞ク活用、待ち遠しくて心がいらだつ、じれったい、不安だ

あまりにもじれったいので、(自分と)同じ大きさの薬師仏を造って(もらい)、手を洗い清めなどして、


人間(ひとま)みそかに入りつつ

人間(ひとま)=名詞、人の見ていない間

みそかに(密かに)=形容動詞ナリ活用、人目に付かないようにひそかにするさま、こっそり

つつ=接続助詞、①反復「~しては~」の意味で使われている。中学の時に暗記させられた「竹取物語」の一部「竹を取りつつ、よろづのことに使いけり。」「竹を取っては、いろいろなことに使っていた。」と同じ使い方。


人の見ていないときにこっそり入っては、


「京にとく  上げ  たまひて、物語の多く候(さぶら)ふ  なる、ある限り見せ  たまへ」と、

とく(疾く)=副詞、早く、すみやかに

上ぐ=ガ行下二段、上へやる、のぼらせる。「のぼる」という意味ではなく「のぼらせる」という使役の意味が含まれていることに注意

たまふ=補助動詞ハ行四段、尊敬語、動作の主体(京へのぼらせる人)である薬師仏を敬っている。

候ふ(さぶらふ)=ハ行四段、丁寧語、ございます、あります。話し言葉で使われているので、話している人である菅原孝標の女(作者)から聞き手である薬師仏を敬っている。ちなみに、男が「候ふ」を使うときは、「さうらふ(そうろう)」と読む。時代劇などで使われているやつです。

なる=伝聞の助動詞「なり」の連体形、接続は終止形(ラ変は連体形)、助動詞の意味については文脈判断だが、断定「~である」、存在「~にある」は文脈的におかしい。また、直前に音声語もないため「推定」でもなく、伝え聞いたという意味がある「伝聞」が正解。

見す=サ行下二段、見せる。四段活用だと「見る」という意味になるが、下二段活用だと「見せる」というように使役の意味が含まれるので注意。

たまふ=補助動詞ハ行四段、命令形、尊敬語、動作の主体(見せる人)である薬師仏を敬っている。ちなみに敬語は敬語を使う人から敬意が払われているので、話し手である菅原孝標の娘(作者)からの敬意である。

「(私を)京に早くのぼらせなさって、物語がたくさんあるという、(その物語を)ある限り全てお見せください。」と、


身を捨てて額(ぬか)をつき、祈り申すほどに、十三になる年、上らとて、九月(ながつき)三日門出して、いまたちといふ所に移る。

身を捨て=自分の身を顧みず一心不乱な様子を表している、身を投げ出して

申す=補助動詞サ行四段、謙譲語、動作の対象(祈られる人)である薬師仏を敬っている。ちなみに、地の文なので作者からの敬意である。

む=意志の助動詞「む」の終止形、接続は未然形。文中であるが「上がらむ。」というふうに鉤括弧と句点が省略されているため文末扱いとなり、「推量」「意志」「勧誘」のいずれかとなる。あとは文脈判断。

身を投げ出して額を(床に)すりつけてお祈り申し上げるうちに、十三歳になる年、(地方官である父の人気が終わったので)京へ上ろうということになって、九月三日、出立して(門出して)、いまたちという所に移る。



 年ごろ遊び慣れつる所を、あらはに  こぼち 散らして、立ち騒ぎて、

年ごろ=名詞、長年の間

つる=完了の助動詞「つ」の連体形、接続は連用形

あらはなり=形容動詞ナリ活用、まるみえだ、はっきりしている、公然としている

こぼつ=タ行四段、こわす、くずす
散らす=補助動詞サ行四段、荒々しく…する、むやみに…する
こぼち散らす=サ行四段、乱雑に取り壊す、とりはずす

長年、遊び親しんだ家を、家の中がすっかり見通せるほどに、乱雑に取り壊して、(門出の準備に)大騒ぎして、


日の入り際  、いとすごく  霧(き)り渡り  たるに、

日の入り際=夕暮れ時、日の入りかかる頃。「際」は「時」を意味しているが、「身分」などの意味もあるので注意。

の=格助詞、同格、「夕暮れ時で、」

すごし=形容詞ク活用、もの寂しい、おそろしい、恐ろしいぐらい優れている

霧る=ラ行四段、霧や霞がかかる
渡る=補助動詞ラ行四段、一面に…する、ずっと…し続ける
霧り渡り=ラ行四段、一面に霧がたちこめる

たる=存続の助動詞「たり」の連体形、接続は連用形、「完了」か「存続」かは文脈判断。

夕暮れ時で、たいそう物寂しく霧が一面に立ち込めている時に、


車に乗るとてうち見やり  たれ  

うち見やる(見遣る)=ラ行四段、遠くを(望み)見る、その方を見る。「うち」は接頭語で、「ちょっと」とか「すばやく」などの意味を加えたりするが、訳さなくてもいいかもしれない。

たれ=完了の助動詞「たり」の已然形、接続は連用形

ば=接続助詞、直前が已然形だから①原因・理由「~なので、~から」②偶然条件「~ところ・~と」③恒常条件「(~する)といつも」のどれかであるが、文脈判断をして②偶然条件の意味でとる。「ふと家の方を見ると、(偶然)薬師仏を思い出した」
ちなみに、直前が未然形ならば④仮定条件「もし~ならば」である。

車に乗ろうとして、ふと(家の方を)見ると、


人間(ひとま)には参り  つつ、額をつき薬師仏立ちたまへ  を、

人間(ひとま)=名詞、人の見ていない間

参る=ラ行四段、謙譲語、お参りする、参上する。動作の対象(お参りされる人)である薬師仏を敬っている。

つつ=接続助詞、①反復「~しては~」の意味で使われている。

し=過去の助動詞「き」の連体形、接続は連用形

の=格助詞、主格、「薬師仏が立っていらっしゃるのを」

たまふ=補助動詞ハ行四段、尊敬語、動作の主体(立っている人)である薬師仏を敬っている。

る=存続の助動詞「り」の連体形、接続はサ変なら未然形・四段なら已然形、直前に四段の已然形が来ている。

人目を避けてはいつもお参りしては、額を(床に)つけていた薬師仏が立っていらっしゃるのを、


見捨てたてまつる、悲しくて、人知れうち泣か  

たてまつる=補助動詞ラ行四段、謙譲語、動作の対象(見捨てられる人)である薬師仏を敬っている。連体形であるのは、直後に「こと」が省略されているからだと考えられる。

ず=打消しの助動詞「ず」の連用形、接続は未然形。ちなみに、直後に用言が来ているから連用形である。用言に連なる形だから連用形。

れ=自発の助動詞「る」の連用形、接続は未然形。受身・尊敬・自発・可能の4つも意味があるので判別が難しいが、直前に知覚動詞(見る・知るなど)・心情動詞(思う・笑う・泣くなど)があると「自発」の意味になる可能性が高い。

ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形、接続は連用形

お見捨て申し上げることが悲しくて、人知れず泣けてしまった。

今回、話しことばにせよ書きことば(地の文)にせよ、敬語を使っているのは作者(菅原孝標の女)だけなので、敬語の主体(誰からの敬意であるか)は、すべて作者である。

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更級日記『門出・あこがれ』まとめ